ひたちなか海浜鉄道/一時は廃線も検討されたが、今では、路線の延伸を検討するまでに回復した。「鉄道が人を呼んでくれ、街が元気になる。それが鉄道の強みです」(同社の吉田千秋社長 写真:ひたちなか海浜鉄道提供)

 この手法で復活したのが、茨城県ひたちなか市の第三セクター、ひたちなか海浜鉄道(全長14.3キロ)だ。2008年4月、廃止の方針を表明していた茨城交通から路線を引き継ぐ形で開業。その後、通学定期の大幅割引や、ネモフィラで有名な国営ひたち海浜公園に最寄り駅から無料のシャトルバスを走らせるなど需要を開拓し、17年に単年度黒字に転換した。

 西では、滋賀県東部を走る近江鉄道が上下分離方式にたどり着いた。

 1896年創業の近江鉄道(全長59.5キロ)は、湖東地域の住民の大切な足となってきた。だが乗客は減り、鉄道事業は1994年度から営業赤字が続く。同社は民間企業だけで維持するのは困難と判断し、2018年12月に沿線の自治体と本格的な協議をスタートさせた。協議に約5年かけ、24年度から上下分離方式に移行する。同社管理部総務課主任の石原一磨(かずま)さんは言う。

「今後も、地域における公共交通の担い手として、地に足をつけながら成長していければと考えています」

AERA 2023年9月4日号より

 先の宇都宮教授によれば、日本の鉄道は、高度経済成長期に利益を上げることに成功したため、黒字経営が当たり前というガラパゴス的な社会通念だけが残った、という。

「そのため、上下分離方式のように自治体が公的な資金で支えるとなると反対の声が上がります。しかし、道路には多額の税金を投じています。鉄道も道路と同じ社会インフラとして、地域全体が受益者となるので、社会全体でしっかり支える必要がある。それが、持続可能な地域社会を築くことにもなります」

 鉄道は高齢者や学生ら「交通弱者」の大切な足でもあり、地方鉄道は地域に人を呼び込む観光資源でもある。未来に向けた鉄道の、新しい地図を描く時だ。(編集部・野村昌二)

AERA 2023年9月4日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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