転機は卒業旅行と称し、一人で行った沖縄だった。飲み屋で酔いつぶれ、お金や荷物をすべて盗られた。親にバレたくないと、警察にも行けない。3日間、公園のベンチに座っていたところを、ホームレスから声をかけられた。そのときはじめて、サッカーでの挫折や、摂食障害であることなど、弱い自分を話すことができた。日雇いのバイトをしながらお金を貯め、東京に戻ったが、「自分にふさわしい場所なんかはない。自分の居場所は自分で作るしかない」と学べたことは大きかった。

 その後、今のクリニックに就職。訪れる男性はどこか自分と似ており、男らしさの病にとらわれ苦しんでいることが多かった。自然と、自分が持つ男尊女卑にも気づいた。

「加害者臨床の中では、フェミニズム的な思想や、ジェンダー平等の思想を学習していかないと、行動変容に効果的にアプローチができない。だから私も自然と、そちらに傾倒していきました」

 今でもまだ、「男なんだから」という思いにとらわれる。でもそれを意識し、有害な男らしさの手放し方を臨床家として模索してきた斉藤さんだからこその一冊となっている。(編集部・大川恵実)

AERA 2023年9月4日号