AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
アルコールやギャンブル、薬物、万引き、痴漢やDVなど、依存症の人たちに共通するのは「男尊女卑」の価値観を持っていること。多くの依存症を見てきた筆者が、日本にはびこる病理を斬り、どうしたら男も女も生きやすい社会になるのかを考える一冊となった『男尊女卑依存症社会』。著者である斉藤章佳さんに同書にかける思いを聞いた。
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最初に言ってしまうと、本書は生きづらさを抱えた男性に向けて書かれた本である。その生きづらさの根底には「男尊女卑の価値観」があり、どうしたらそれを手放せるのかを指南しているのだが……。
「こういうタイトルって、たいていの男性はスルーするんですよ。もしくは『自分は男尊女卑じゃない』と、反発や抵抗するかですね」
筆者の斉藤章佳さん(44)はそう話す。それでもこのタイトルをつけたのは、斉藤さんが依存症の臨床現場で20年以上、延べ数万人を見てきた実感があるからだ。
たとえば、アルコールや薬物、ギャンブル、DV、痴漢などの依存症になる人たちは「ワーカホリック」傾向であることが多いと指摘する。男性は、「男だから勝たねばならない」というような「男らしさ」に、身体的、精神的に追いつめられ、現実逃避として依存症になる人も少なくない。その「男らしさ」は社会にはびこる男尊女卑の価値観、つまり男性優位社会にとらわれているからだと、様々なケースを通して詳(つまび)らかにする。ただ、これは単に現場の話ではない。斉藤さんにも男尊女卑が根付いていると言う。
「私が生まれ育ったところが、非常に家父長的で男尊女卑の強いエリアでした。私が長男として誕生したときに、祖父母は天皇陛下がいる方角に向かって万歳をしたのだと聞かされて育ってきました」
学生時代、斉藤さんはプロのサッカー選手を目指しブラジルにも留学したが、両膝の半月板をケガしてしまう。その間、体重を維持するために食べては吐きを繰り返し、摂食障害に。プロの道は断念し、サッカーを奪われた自分には何の価値もないと、無気力なまま大学生となった。