二つ目の要素は、政治との関係だ。そこには二つの事情がある。

  1. 木原氏は閣僚ではないが、岸田氏最側近である。木原氏を攻撃すれば、それは岸田首相を攻撃するのと同じ。そこで、岸田忖度で報道を控える可能性がある。ただし、安倍政権や菅義偉政権の時に比べれば、その影響は小さくなっているように見える。
  2. 木原氏は官邸のキーパーソンであり、政治部は、彼から情報をもらえなくなると困る。そこで、社会部に対して、本件を報道しないで欲しいと要請ないし圧力をかける。社会部もそれに影響される。

 以上が報道が少ないことへの私なりの解釈だが、本件については、もう一つ不思議に思うことがある。それは、文春が報じる「木原氏本人の政治介入の結果として、捜査が突然中止になった」というストーリーの不自然さだ。

 木原氏は、18年の再捜査当時、筆頭の政調副会長ではあったが、大臣でもなく、それほど大きな力を持ってはいなかった。もちろん、政治家の妻を取り調べるとなれば、警察もハードルは高いとわかっていたはずだが、それでも警察上層部はゴーサインを出した。木原氏が抵抗したり、脅しをかけてくることくらい百も承知で、それでもやると決めた案件だ。それなのに、木原氏の脅しだけで突然捜査中止となるだろうか。文春によれば、木原氏が妻に車内で「俺が手を回しておいたから心配するな」と話していたことがドライブレコーダーに残っていたそうだ。「手を回した」の具体的意味は不明だが、木原氏が警察幹部に圧力をかけたとしても、それで警察が諦めると考えるのには前述のとおり無理がある。木原氏よりも高い政治的レベルの指示で捜査にストップがかかったと見るのが自然だろう。

 ところで、18年と言えば、まだ安倍晋三政権、菅義偉官房長官の時代だ。そして類似案件として思い出すのが、伊藤詩織さんレイプ事件である。その容疑者として、元TBSの記者で安倍元首相と非常に近い関係にあった山口敬之氏に逮捕状が執行されようとした時に、菅氏の元秘書官でのちに警察庁長官になった中村格氏がその当時の警視庁刑事部長としてその執行を止めた(本人が週刊新潮の取材に対してその事実を認めている)という前代未聞の事件である。

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木原氏は「爺殺し」と呼ばれていた