山口氏と安倍氏が非常に近い関係にあったので、安倍氏または菅氏などの政権中枢からの指示または忖度で逮捕状執行が止められたという疑惑が取り沙汰されたが、この時もやはり、大手メディアの社会部は完全に沈黙した。

 木原事件の捜査再開は詩織さん事件の後であるが、当時の警察庁官房長が詩織さん事件の逮捕状執行を止めた中村格氏だった。官房長なら、立場上、警察に関する重要情報は全て入る。中村氏を通じて菅氏にも木原夫人に捜査の手が伸びていることは伝えられていたのではないか。

 菅氏は無派閥で木原氏は岸田派。あまり関係なさそうだが、木原氏は爺殺しと言われるほど時の権力者に取り入るのがうまかったという。菅氏は、創価学会対策などで木原氏を重用し、可愛がっていたとも報じられている。従って、菅氏やその周辺の影響力が捜査中止に繋がったという見立ても、詩織さん事件からの類推として、あながち見当ハズレとは言えないように私には思えてくる。

 そして、もう一つ不思議だと思うことがある。

 誰が、文春に情報提供をしているのかということだ。元警察官の証言は、取材の過程で浮上したものらしい。元々は警察からの内部告発ということなのかもしれないが、報道の趣旨が、とにかく木原氏極悪人説で固まっていることが不思議である。途中では、本筋とは関係のない違法風俗通いまで報道された。最側近の木原氏を叩けば、岸田氏は軽々に切るわけにはいかず守ろうとするだろうという読みの下に、木原集中砲火を続けているようにも見える。

 現に岸田氏は木原氏を守る姿勢を貫いている。その結果、木原氏の評判が落ちれば、岸田政権の支持率が下がるという方程式が成立した。

 それを喜ぶのは岸田氏追い落としを狙う勢力である。

 ここでも私の頭には菅氏の名前が浮かぶ。菅氏は岸田氏の政敵。最近はあからさまに岸田批判を展開している。前述のとおり、菅氏は官房長官として当時の全ての情報に接していたと見るのが妥当だ。当時は木原氏を守ったが、今は政敵の懐刀となっているから守る義理はない。

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