夫婦二人暮らし。良夫さんは、電気工の職人だったが、広範脊柱管狭窄症という脊椎の病気で現在は寝たきり生活を送っている。手足の筋力が低下し、自分で食事や排せつができず、1年前、尿路感染症を起こし対馬病院に入院していた。根本治療がなく、このままでは命も危ないという状態だったが良夫さんの「病院はいやだ。自宅に帰りたい」という希望から、在宅に切り替えた。
「当初は『1カ月ももてばいい』という状態でした。なんとか夫の希望をかなえ、1年間在宅でやってこられました」
と幸子さんは話す。入院中は病院まで通い、つきっきりで看病するのが体力的にきつかったという。在宅になってからはそんな苦労からも解放された。週2、3回の訪問看護と月1回の訪問診療を受けながら、幸子さんが介護をしている。当初危うかった状態も、自宅に帰り食事がとれるようになって落ち着いた。
この赤木家の在宅医療に、今年6月からICT機器が導入されている。幸子さんが毎日朝昼晩の3回、脈拍、血圧、体温、血液酸素濃度を測ると、数値がスマホに自動転送される。このデータがネットワークを介して対馬病院に届き、八坂医師は病院のパソコンや手持ちのタブレット端末で良夫さんの状態を把握することができる。これらのICT機器は、長崎県の実証事業として県から貸与されたものだ。
「これまでは毎日、ノートに脈拍、血圧などを記入して、訪問看護師さんが来るときに見せていました。高熱が出たとき、とくに夜の場合、看護師さんに電話してもいいものか迷っていましたが、いまは、状態を八坂先生が診ていてくれるという安心感があります。困ったときはチャット機能で問い合わせることもできて、とても助かっています」(幸子さん)
八坂医師はICT機器導入の手ごたえをこう話す。
「24時間バイタルデバイスでチェックできるので、早め早めに対応ができるようになりました。おかげで、悪化させない、入院させないケアができやすくなったと思います」