病院に行くことが難しい患者の自宅に、医師が訪問して診療するのが「在宅医療」だ。日本でもっとも離島が多い長崎県では、離島で在宅医療をおこなう医療機関は減少傾向にある。この課題に対して、同県は2022~23年度に医療ICTを活用して効率的な医療体制の構築を図る実証事業に取り組み始めた。その現場のひとつ、離島の対馬にある長崎県対馬病院の在宅医療を取材した。前編後編の2回に分けてお届けする。
【写真】在宅医療で導入されたICT機器 同行取材の写真など(全9枚)
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過疎化・高齢化が進む離島
長崎県・対馬は、九州と韓国の間に浮かぶ島で、南北に約82キロと縦長の形をしている。人口は約2万8千人。病院は二つあり、最北端に上対馬病院、南半分のおよそ中心あたりに対馬病院がある。
今回取材した対馬病院は、2015年に新築移転した病院で、25の診療科を持ち、病床数は275床。医師47人が勤務している。
19年4月に八坂貴宏医師が院長に就任し、在宅医療やICT導入に積極的に取り組んでいる。
在宅医療は、医師が訪問する「訪問診療」と看護師が訪問する「訪問看護」があり、組み合わせておこなうことも多い。ときに、患者や家族からの緊急の要請に応じて駆けつける「往診」もある。
こうした在宅医療は、過疎化・高齢化が進む離島やへき地で、診療機会の減少が懸念される患者への診療提供の方法として期待されている。高齢で日常生活動作が衰えた患者は、家族のサポートなしで遠くの病院まで通院できなくなるからだ。この課題に対して、長崎県はICTを活用して解決していこうと「地域医療充実のための医療ICT活用促進事業」(2022~23年度)を実施している(詳細は後述)。
この事業に離島で唯一参加しているのが対馬病院だ。院長の八坂医師自ら担当している。今回、この事業の実情を探るべく、7月上旬、対馬を訪れた。
今年6月にICT機器導入
対馬病院を出発して訪問診療に向かう車を追いかけて、南に約25分。途中、左手に海を臨みながら、港町を過ぎ、山あいの入り組んだ道に入っていく。戸建ての家の前に車を止めて、八坂医師と訪問看護師が赤木良夫さん(仮名、76歳)の自宅に上がる。出迎えた妻の幸子さん(仮名、66歳)が、1階リビングに置かれた良夫さんのベッドの前で八坂医師に話しかける。
「先生、今日は(夫の)顔色いいでしょう」