長崎県は応募があった事業者から、11事業者を選定し、現在、各事業者で実証事業が進められている。このうち、離島部で選定されたのが対馬病院だ。
八坂医師は、対馬病院の在宅医療の状況についてこう話す。
「私が院長に就任する以前は、入院していた患者が退院して自宅に戻る場合、条件が合うケースにだけ、在宅医療を提案するという具合に、細々と実施していた状況です。私は、前任地の五島列島の上五島病院で在宅医療に取り組んできたので、対馬でもやるべきだと考えました」
院長就任翌年の20年には地域医療連携室を充実させ、地域の医療機関、行政、介護福祉施設などとの連携を進め、21年には訪問看護ステーションを設置し、医療保険・介護保険の両方で訪問看護をできるようにした。在宅医療の対象は、入院から退院する患者だけでなく、通常の外来で通院が困難になった患者にまで広げ、認知症にも対応するようにした。
現在、対馬病院で訪問診療に携わる医師は7、8人。訪問看護師は4人で、平均20~25人の在宅患者を担当している。八坂院長は、在宅医療に取り組む理由やICT事業応募の理由についてこう語る。
「私自身が島出身で、我々の仕事は患者の生活や生きていくことを支えることだと思っています。病気を治すことだけではないですから、病院の中で仕事をするのではなく、患者の生活が見える外へ出ていく在宅医療に取り組んでいます。ICTについては、離島だから本土並みの医療が受けられないということがあってはならないし、離島医療が都会と同じ医療の質を提供できる形を目指したいと思っています。その可能性が広がるものであれば何でも新しいことにチャレンジしてみたい。やれることはやるという感覚ですね」
ICT事業は今年2月から開始し、県から貸与された機器は3セット。研究ベースで1年間おこなうものなので、1人あたり3~6カ月程度で複数人に使うことで、どういう人がマッチしているかを検証していきたいという。すでに2人の患者の使用が終了している。うち1人は外来の60代糖尿病患者に使ってもらい、日々のデータ把握により、意識向上につながり、体重減少に成功した。もう1人は、在宅の90代慢性心不全患者で、同居の息子がICT機器でデータを管理。「毎日状態を病院に把握してもらっているので安心感があった」という声をもらったという。
取材・文/杉村 健(編集部)
後編に続く:医療的ケア児の通院「泣き出すと酸素量も低下」 5分で終わるオンライン診療導入で恩恵【対馬の在宅医療・後編】