良夫さん本人は、寝たきりではあるものの、電気工の職人として「(弟子に)技術を伝えたい、教えたい」と言って、それを生きる目標にしている。幸子さんは「それをかなえてあげたい」と献身的に介護を続けている。

病院内のモニターで、ICT機器を通じて送られてくる患者情報をチェック。タブレット端末でも見ることができる(撮影/木村和敬)

長崎県の医療状況

 ここで、長崎県の医療状況やICT事業について簡単に説明しておこう。

 長崎県は日本で最も島の数が多い都道府県だ。県の担当課によると、人口10万人あたりの医師数は、全国267.0人に対し、長崎県は332.8人と意外に多い。しかしこれは内訳として本土部が多く、離島部は213.7人と少ないのが現状だ。訪問診療をおこなう医療機関の数でみると、約半数が長崎市を中心とした本土の長崎医療圏に集中しており、離島医療圏では22施設と県全体の件数の2.8%にすぎない。

 対馬の人口における65歳以上の割合は、38・6%。全国平均の28・6%はもちろん、長崎県33・0%よりも高い。

 長崎県は、▼離島へき地を中心に住民の過疎化・高齢化が進行することで訪問診療のニーズが増える▼訪問診療実施医療機関は減少傾向(15年:456施設↓19年:418施設)にあることから、1機関あたりの負担軽減や離島僻地における診療機会の確保を図る必要性を認識。医療ICTを活用した効率的な医療体制の構築を図る狙いで、今回の事業を開始した。

 具体的には、在宅医療に取り組む事業所に患者用のICT機器を貸出し、機器を通して各施設で患者の状態を共有できるようにする。患者や家族は、自宅で体温、脈拍、血圧、酸素飽和度などを毎日測定。データはスマホを介して、サーバに自動転送。事業者はパソコンやタブレット端末などで、患者の状態を把握できる。これにより、訪問診療の回数を減らすなど、医療機関側・患者側双方の負担を減らそうという試みだ。

★「AERA dot.」のコラムニストだった大石賢吾・長崎県知事のインタビュー記事はこちら:精神科医コラムニストから長崎県知事に 「誰も取り残されない社会の仕組みづくり」目指して

 応募できる事業者の条件は、患者の診療情報を複数の医療機関で共有できるシステム「あじさいネット」(長崎県医師会や長崎大学が運営)に加入していること。

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21年には訪問看護ステーションを設置