さらに棚橋氏は、「漢字を読む能力と読解力との間には密接な関係があると思われ、ルビを振ることで思考力を鍛えられる可能性もあります」と言う。
たとえば、偏差値下位の公立高校の授業で中島敦の『山月記』を扱った際、難解なことで知られる同作に総ルビを振ったテキストを使用して生徒に読解させたところ、生徒たちの間で活発な議論が起こったという。棚橋氏は言う。
「この授業をしていた教員はもともと進学校に勤めていたのですが、そこでの議論と比べても遜色なかったとおっしゃっていました。生徒たちが内容を理解できないのは、内容そのものが難解だからではなく、漢字が読めない、あるいは意味がわからないことに一因があるのです」
そしてこう続ける。
「漢字が読めないために思考することができなかった子どもたちが、漢字がわかることで思考ができるようになった。これは、ルビを振ることが思考力の育成にもつながる可能性を示唆しています」