ネット上で顔の見えない人たちから攻撃されると、「もしかしたら今から買い物に行くお店のレジの人かもしれない」「隣にいる人かもしれない」と、ものすごく警戒してしまうんです。「死ね」とか「首を絞められればいい」とか、身の危険を感じるような、思い出したくもない言葉もたくさんあって、それをどれくらい真剣に捉えていいのかが分からない。流せばいいと頭では分かっていても、心や体は、当然自分を守ろうと反応します。
それで次第に生活がしづらくなって、最初は生活の場をロンドンに移し、今はドイツにいます。日本語が聞こえない生活圏のほうが安心感がありますね。でも日本でもまだまだ取り組みたいことがあるので、顔を背け続けてはいけないと思って、日本に戻って映像ジャーナリストとして発信したりもしていますけど、長く日本にいると苦しくなってしまうので、うまくやっていけるバランスを探しているところです。
普段軽い気持ちで言葉を発している人には、その1クリックが、その指先一つが、誰かの生活や、最悪の場合は命を奪ってしまうかもしれないことを、真剣に考えてほしいです。
(聞き手・構成/AERA dot.編集部・大谷百合絵)
●伊藤詩織(いとう・しおり)/1989年生まれ、神奈川県出身。ジャーナリストとして、エコノミストやアルジャジーラなど海外メディアを中心に活動し、映像ニュースやドキュメンタリー作品を手がける。2017年、元TBS記者から性的暴行を受けたことを公表して訴訟を起こし、日本における#MeToo運動の先駆けとなる。20年9月、米国タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた。