さらに、幼いころから両親の働く姿を見てその仕事に関心を自ずと寄せるようになった人、逆に親のようになりたくないと思って、それとは正反対の分野に関心を向けようとする人もいます。
その才能が社会的にはっきり目に見える形で発揮されるまでには20年くらいの時間がかかるとはいえ、それでも人生の最初の20年余りに、その人の遺伝的才能は、そのおよその姿をどこかであらわしているといってよいでしょう。
そしてその原初的な方向性は、いまの日本ならおそらく小学校高学年ぐらいになるまでに、自ずと世の中にあるさまざまな事柄に対して、自分の好きなこと、嫌いなことの濃淡としてあらわれてくるものです。それをはっきり自覚する人もいますし、自覚しない人もいます。その関心の強さが誰にでもわかる形ではっきり行動にあらわせる人もいますし、心の奥底でひそかに感じているだけの人もいます。
しかしどんな人にとっても、それが幼い子どもであっても、世界はどこを見てもかわり映えのない無味乾燥とした平坦なものではありません。自分が投げ込まれたリアルな世界が発する膨大な刺激の中から、自分の心に関連を感じられる刺激にウエイトを置いて反応し、その子独自の「自分の生きる世界像」をつくり上げていると考えられます。
安藤 寿康 あんどう・じゅこう
1958年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。慶應義塾大学名誉教授。教育学博士。専門は行動遺伝学、教育心理学、進化教育学。日本における双生児法による研究の第一人者。この方法により、遺伝と環境が認知能力やパーソナリティ、学業成績などに及ぼす影響について研究を続けている。『遺伝子の不都合な真実─すべての能力は遺伝である』(ちくま新書)、『日本人の9割が知らない遺伝の真実』『生まれが9割の世界をどう生きるか─遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』(いずれもSB新書)、『心はどのように遺伝するか─双生児が語る新しい遺伝観』(講談社ブルーバックス)、『なぜヒトは学ぶのか─教育を生物学的に考える』(講談社現代新書)、『教育の起源を探る─進化と文化の視点から』(ちとせプレス)など多数の著書がある。