これは親の子育てスタイルの方に問題があるということになります。逆に言えば、子育ての仕方をもっと冷静に見直して、子どもが不注意だったり多動であったりしたからといって、むやみやたらにしつけを厳しくしすぎないようにすれば、問題行動もある程度抑えることができる可能性があるのです。多動・不注意傾向の高い子だからということで「悪い子」であると決めつけるのではなく、問題行動をしでかしてしまった子どもの事情を冷静にくみ取る努力をし、そのうえで善悪の道理を示していくことが肝要なのではないかと思われます。
一方、多動・不注意傾向の低い、その側面では健常の範囲内にある子どもの「悪さ」はどう考えればよいでしょうか。その場合、子ども自身のもつ問題行動の遺伝的傾向が高いほど、それに即して親の厳しい態度が導かれているという要素が、親自身の作り出す厳しさが子どもの問題行動を助長させるという要素よりも強いと考えられます。つまりそれは問題行動に対するしつけとして厳しくなるのは当然であるといえます。悪いことは悪いというメッセージは、子どもの多動・不注意傾向の高低にかかわらず、子どもには知識として教えなければなりませんが、同時に子どもが「悪さ」をしてしまう状況、すなわちその子特有の非共有環境が何かを見極めて、その状況に陥らないように環境を整えてあげることも必要になってくるでしょう。たとえば好きなものをきょうだいと分けあわなければならないときに、自分のことしか考えずに乱暴になってしまうことが多いとしたら、あらかじめ一人ひとりの分を分けておいて、一人ずつ渡すようにするというように。
安藤 寿康 あんどう・じゅこう
1958年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。慶應義塾大学名誉教授。教育学博士。専門は行動遺伝学、教育心理学、進化教育学。日本における双生児法による研究の第一人者。この方法により、遺伝と環境が認知能力やパーソナリティ、学業成績などに及ぼす影響について研究を続けている。『遺伝子の不都合な真実─すべての能力は遺伝である』(ちくま新書)、『日本人の9割が知らない遺伝の真実』『生まれが9割の世界をどう生きるか─遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』(いずれもSB新書)、『心はどのように遺伝するか─双生児が語る新しい遺伝観』(講談社ブルーバックス)、『なぜヒトは学ぶのか─教育を生物学的に考える』(講談社現代新書)、『教育の起源を探る─進化と文化の視点から』(ちとせプレス)など多数の著書がある。