「行動遺伝学的視点に立つと、ヒトはどんなときでも、遺伝の影響を受けながら環境に対して能動的に自分自身をつくり上げている存在であることがわかる。」と、慶應義塾大学教授で行動遺伝学者の安藤寿康氏はいう。同氏の新著『教育は遺伝に勝てるか?』(朝日新書)では、子育てマニュアルにはない科学的に見た子どもを取り巻く環境としての“子育て”について書かれている。同著から一部を抜粋、再編集し、子どものしでかす問題行動に親ができることを紹介する。
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子どもをコントロールする親、子どもに振り回される親
親が子育てで直面する問題は、子どもがしでかす問題行動でしょう。すぐカッとなって人に手を出す、大人の言うことを聞かない、さらにはうそをついたり人のものを盗んだりする。こうなると親としては黙ってはいられず、厳しく叱ることになります。しかし子どもからすれば、お母さんやお父さんがすぐ怒って手を出すから、ついイライラして自分も友達に手を出したり反抗したくなってしまうと思っているかもしれません。実際、親の養育態度が厳しければ厳しいほど、子どもは悪い行いをする傾向があります。あるいは子どもが悪い行いをする傾向が強いほど、親の養育態度は厳しい傾向にあります。果たして因果関係はどちらから先に始まったのでしょう。
ふつうこのような「卵が先かニワトリが先か問題」では、親か子かのどちらかに一方的に原因があるのではなく、双方の間の「相互作用」なのだと説かれます。子どものふるまいと大人のしつけの厳しさが相互に絡まりあっているのであって、どちらにも一方的に責任を負わせることなく、両方が努力しあおうというのが「正しい」態度とされます。それはそれで、子育ての場では大事な姿勢であることには違いがないのですが、行動遺伝学的な分析をすると、そこには双方のもう少し繊細なメカニズムを垣間見ることができます。
行動遺伝学の原則の一つが、あらゆるものに遺伝的な差異があるということでした。ここでいえば、子どもが悪さをする程度にももともと生まれつきの差がある。ただその程度が環境によって強く出すぎることもあれば、抑えられたりすることもあると考えます。この場合、どんな条件で子どもの聞きわけのなさや暴力的な行為やうそ・盗みなどの行為が助長されるのか、あるいは親のかかわり方でそれをコントロールできるのかということが問題になります。