孤立した若者が、行き場のない思いを爆発させる事件が近年、見られるようになった。孤独や孤立が生まれる背景には何があるのか。AERA 2023年8月14-21日合併号から。
* * *
「ぼっち」と言われたように聞こえたという。
長野県中野市で5月25日夕、警察官2人を含む男女4人が殺害される事件が起きた。逮捕された容疑者の男(32)は、殺害した近所の女性2人に「『ぼっち』とばかにされていると思った」と供述し、世間に衝撃を与えた。
「ぼっち」とは「独りぼっち」のこと。1990年代から2000年代にかけ生まれた概念で、「友だちがいないかわいそうな人」を指す言葉として若い世代に定着した。
特に学生は「ぼっち」という言葉に敏感だ。20年ほど前、一人でご飯を食べる姿を他人に見られたくないと、学食ではなくトイレの個室で食べることが話題となった。「ぼっち飯(めし)」「便所飯」などといわれ、大人たちを驚かせた。
教育学者で千葉大学の明石要一名誉教授(教育社会学)は、「若者は友だちがいなければダメだという同調圧力に苦しめられている」と指摘する。
明石名誉教授も、15年ほど前から学食でご飯を食べずコンビニで買って自分のアパートに持って帰り、一人で食べる若者が多いことに気がついた。
「学食に一人でいて、周りから友だちづき合いが下手だと思われるのを、受け入れられないのだと思います」(明石名誉教授)
背景には教育があるという。
今の子どもたちは幼稚園や保育園の時から「みんな仲良くみんな同じ」と教えられ、「みんな同じでなければいけない」と刷り込まれてきた、と。
「その結果、大人になっても友だちが多いことを評価する価値観が生まれ、友だちがいなければダメだという同調圧力にさらされるようになりました」(同)
社会学者で、孤独・孤立の問題に詳しい早稲田大学の石田光規(みつのり)教授は、「若い世代の人間関係にまつわる不安は1990年代後半に入り顕著になった」と指摘する。