タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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運ばれてきた料理に目を見張り、早速頬張(ほおば)って「美味しい!」。その時目に入るのは、スマホでお皿を撮影する知人たち。そっか、せっかくの綺麗(きれい)な盛り付けだもんね。でも、私のお皿の秩序はすでに失われているのでした。旅先で絶景に出合い、感激して何枚も撮影する私。ふと周囲を見ると、景色をバックに自撮りをする人々が。微笑みを浮かべ、慣れた仕草でスマホをかざしています。しかし私はどうしても、どうしてもあの自撮りというやつが苦手で下手くそなのです。たまにはSNSにあげた方がいいと言われてやってみるのですが、場所はたいていタクシーの中。全然代わり映えのしない背景で、表情もぎこちない。そもそも、日常的に自分を写真に撮る習慣がありません。今の時代に何言ってんだと笑う人もいるでしょうけど、旅に行っても景色や家族や友人ばかり撮って、気づけば自分の写真がないのです。仕事では写真を撮られることが多いので、レンズの前で笑顔を作るのは慣れているし、プロのカメラマンは加工でシワも減らして素敵(すてき)に仕上げてくれます。でも仕事以外では、人見知りのこどもの気持ちに戻ってしまう。
なかには、わかる!という人もいるでしょう。そんな人におすすめなのが「観察写真」です。ぜひ友人や家族に撮ってもらいましょう。観察ですから、本人が気づかぬうちに撮られている写真です。野生動物を撮るのと同じですね。私の友人にはこれがとても上手い人がいて、盗撮カメラでも持っているのか?!というぐらい全く気づかないうちに旅先の私の様子をたくさん撮ってくれます。観察写真には、自然体の意外な自分と、撮影者の温かい眼差(まなざ)しが写っています。後ろ姿も案外表情豊かなもの。新たな自分と出会えます。隙のない写真をアップするのもいいけれど、仲間と楽しむ「観察写真集」もいいものですよ。
◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。
※AERA 2023年8月14-21日合併号