だが、警察や司法の取り締まり、何より勇気あるシチリアの人々が、「さよなら、みかじめ料運動」などでマフィアとの縁を断ち、本来の豊かな故郷を取り戻そうと今も奮闘している。マフィアから押収した土地でオーガニックな農業に取り組み、採れた作物を使ったレストラン・ショップ・B&Bなどを展開し、「エシカル消費」に繋げている。それは「ゴッドファーザー」ファンとは違う新しい観光客を世界から呼び込む力となった。
たとえばパレルモのあるレストランは、いくつかのNPOの共同運営だ。シェフはアフガニスタンからの移民である。地元の食材を使い、学生や移民に安くておいしい料理やワインを提供。夜はバーになるというなんとも魅力的な場となっている。しかも難民は無償で食事が食べられる。
「シチリア島は地理的に移民の多い土地です。文化もアラブ的、ギリシャ的なものが入り混じり、古いアルバニア難民と共有する村々やチュニジア人居留区もある。そういう歴史が島を豊かにしたのだと、市民がわかっています」
日本のスローフードにも詳しい島村さんは、噴火や地震の多いシチリアの災害復興の歩みにも着目する。それが同じく災害の多い日本の被災地復興のヒントになるからだ。
「情報交換する価値は大いにありますよ。ローカリズムを成熟させるためには、自然と寄り添う産業と持続可能な観光が手を結ぶべきなんです」
言葉に力がこもった。
(ライター・千葉望)
※AERA 2023年3月27日号