AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
「シチリアの奇跡 マフィアからエシカルへ」は島村菜津さんの著書。マフィアの島として世界的に有名になってしまったイタリア・シチリア島。火山島として度重なる災害にも見舞われてきた。しかしそこでは反マフィアの姿勢を貫き、政治にも働きかけながら果敢に生きる人々がいた。彼らがたどり着いたのは、肥沃な土地から生まれる豊かな作物を活用したエシカルな「地域おこし」。遠い日本でも大いに参考になる再生と希望のルポである。島村さんに、同書にかける思いを聞いた。
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島村菜津さん(59)といえば「スローフード」。イタリアにおけるスローフード運動を紹介した『スローフードな人生!』を読んだ時の清新な驚きを今も覚えている。その島村さんが「マフィアの島」として世界的に知られるようになってしまったシチリア島に注目。勇気を持ってマフィアと戦って負のイメージを覆し、彼らから押収した土地を生かしてオーガニックな作物を作り、「エシカル消費(倫理的課題に取り組む生産者を支援するための消費行動)」につなげている人々を丹念に追ったルポルタージュを執筆した。
「シチリア島というと大ヒットした映画『ゴッドファーザー』シリーズか犯罪学者の書いたマフィア学の本のイメージが強く、実際に私が足を運んで得た印象とは全然違いました。シチリア島は活火山であるエトナ山があって地形が多様ですし、肥沃な土地にも恵まれて地域食材が豊富です。海も美しい。ところが外国からは土着性が強く、乾いた辺境の土地だと思われています」
本書の前半で描き出されるマフィアとの戦いは凄まじい。「ゴッドファーザー」では残酷な場面ですら美しく官能的に描かれていたが、実際に起きる殺人事件は凄惨の一語。警察・司法・一般人まで対象となり、銃撃どころか道路ごと(!)乗った車を爆破されて命を失うこともあった。もちろん金のためである。マフィアは島の経済を牛耳り、食品偽装にまで関係していた。