76歳になったときに、ある雑誌のリクエストで「日銭を稼ぎながら凜として老いる」というタイトルの原稿を書きました。原稿料、講演料といった日銭を稼ぎ、そのお金で楽しい晩酌を続けて、凜として老いたい、といった内容です。その原稿にこうあります。
「不幸にして脳出血とか心筋梗塞などの病を得たらどうだろう。話せない書けないでは万事休す。日銭はその日から途絶える。(中略)でも甘いかもしれないが、全国の女性ファンが助けてくれるのではないかと高をくくっているところもある」
いま読み返してみると、なんとも自分勝手で恥ずかしい限りです(笑)。
でも、このときに書いた「日銭を稼ぎ続けて、死ぬその日まで晩酌を楽しみたい」という気持ちは10年以上たった今も変わりがありません。ですから、脳梗塞を防ぐためのサプリメントを摂(と)り続け、下半身の衰えを防ぐために牛肉を食べ、骨を強くするために昆布の出し汁を飲み、毎朝の太極拳を続けています。
変わったところといったら、死後の世界への親しみが一段と増してきたことでしょうか。最近も親しい人が向こうに行きました。あちらも賑やかになっていると思うと、向こうの世界に行くのが楽しみになります。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2023年3月31日号