でも、いきなり自由だと言われても、どうしたらよいのか、なかなかイメージが湧かないだろう。それは社会に出る前の青年期に似ている。自由が手に入る時期は迷い悩む時期でもあるのだ。ただし、その迷いも悩みも、非常に前向きのうれしい迷いであり悩みなのである。
自分はどちらかというと会社人間であるといった自覚がある場合は、60代になる前から脱・会社人間の心の準備をしておくことも大切だ。職務上の役割以外に、趣味でも勉強でも関心を広げ、準備体操的なことをしておくのがよいだろう。
定年延長や再雇用の動きも活発化しており、退職まではまだ時間があるという人も、目の前の職務にばかり没頭するのではなく、いきなり職業的役割を失い、通う場所がなくなったときのことを想像してみよう。怖ろしく、不安になるのではないだろうか。何にでも心の準備は必要である。
もうすでに定年退職し、再雇用の時期に入っている人や職場から完全に離れている人は、今の自分の状況や気持ちを振り返りながら、今後のことを考えてみよう。

榎本博明 えのもと・ひろあき
1955年東京都生まれ。心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。『「上から目線」の構造』(日経BPマーケティング)『〈自分らしさ〉って何だろう?』 (ちくまプリマー新書)『50歳からのむなしさの心理学』(朝日新書)『自己肯定感という呪縛』(青春新書)など著書多数。