――どうしたらいいのですか。

水野:経済学者のJ・M・ケインズ(1883〜1946)が言っているのですが、経済学の目的である「豊かにすること」はあくまで中間目標です。その先にあるのは「明日のことを心配しなくていい社会」です。そのためには社会保障を充実しないといけない。困ったときには援助の手がさしのべられる。今なら国家によってです。

 労働問題でいえば、非正規労働者が3年勤務して更新できないなんて問題も最近はあります。非正規労働、派遣制度はすぐやめるべきです。勤めている人の最大の特権は辞める自由です。だけどいまは会社が「辞めさせる自由」をもっている。これはおかしい。働く人は労働力を提供しないと生きていけない。だが資本家はAさんの労働力を買わずともBさんを買う自由がある。非対称的な力関係です。

 辞める権利は労働者側にはあるが、辞めさせる権利は会社側にはない、というような仕組みにしないといけない。そうなれば、人事担当は真剣に採用しないといけないし、入ってからの研修制度も充実させないといけないということになる。働いている人も、引退した人も、明日のことを心配しなくていい社会にしないといけない。

●原 真人(はら・まこと)
1961年長野県生まれ。早稲田大卒。日本経済新聞社を経て88年に朝日新聞社に入社。経済記者として財務省や経産省、日本銀行などの政策取材のほか、金融、エネルギーなどの民間取材も多数経験。経済社説を担当する論説委員を経て、現在は編集委員。著書に『経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)、『日本「一発屋」論─バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)がある。