産業革命は今、「第4次」と言われていますが、その中心となるITだって(効果は)結合です。蒸気機関と違う発明だと言いたいので第4次と言っているのでしょうが、結合という観点でいえば第1次の延長線上でしかない。人々は今、インターネットやメールでより短く結合している。その結果、より遠く、より速くの限界がいま来ています。
象徴的なのは、マッハ2のコンコルドが技術的な問題なのかコスト的な問題なのかわかりませんが、今世紀初頭に運航停止になりました。さらに太平洋航路のジャンボ機もその後、運航停止になりました。どちらも合理性に合わなくなったのです。
情報の流通も同様です。米ウォール街で普及した(コンピューターで自動的に大量に株売買をする)高速高頻度取引は、10億分の1秒で取引をやってしまうそうです。これは国民の幸せとはまったく関係ない速さですよね。
――たしかに本末転倒になっています。何のための技術革新なのか。
水野:ニューヨークでやっているから東京証券取引所でもやるというのも、おかしな競争です。これも限界にきています。たとえば高速取引を10億分の1秒から100億分の1秒にできたからといって、どうなのかということです。これは中間層にはまったく関係ない話です。何十億円、何百億円の投資をする人だけがアクセスできる取引の話であり、ふつうの人にはまったく関係ない。
国民国家体制というのは国民が幸せになる仕組みのはずです。国王や貴族だけが幸せになることでなくて。では国民が豊かになるというのはどういうことか。フランス革命は「自由と平等」を掲げました。「自由というのは所有の関数」と言ったのはカナダの政治学者、C・B・マクファーソン(1911〜87)です。所有物が多ければ多いほど人間の自由度は高くなる。自由に行動するためには所有権が必要だと。うまいことを言うものです。
たとえば今、ビリオネア(保有資産10億ドル=1300億円以上)と呼ばれる人たちが金融資産(現金や預貯金、株式、投資信託など)をどんどん増やしています。金融資産を保有していない人は日本でも2割強いますが、80年代後半は3%しかいなかった。つまりこの30年で資産をなくした人がいっぱいいたわけです。これは資産をたくさんもっている資本家のための自由はあるが、多くの国民はどんどん自由を失っているということです。