6月に史上最年少で名人位を獲得した将棋の藤井聡太七冠は、先日も棋聖戦を4連覇し、前人未到の八冠にまた一歩近づきました。AERAに連載した棋士たちへのインタビューをまとめた『棋承転結 24の物語 棋士たちはいま』(松本博文著、朝日新聞出版)では、渡辺明九段をはじめ多くの棋士が、藤井七冠との対局の印象を語っていて、小学生だった頃やルーキー時代からタイトルを獲得していった現在まで、藤井七冠の軌跡が感じられます。2023年1月30日号に掲載された飯島栄治八段のインタビューは、36歳で13歳の藤井七冠と対戦した時のショックを語っています。(本文中の年齢・肩書はAERA掲載当時のままです)
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飯島栄治の現在の趣味は、銘品の駒を集めることだ。
「駒はもう『なんでも鑑定団』に出せるぐらい、いっぱいあります。書体は錦旗、水無瀬、菱湖から、珍しい鵞堂などまで、ほとんどの書体をコレクションしています。タイトル戦で使われるようないい駒は、見ればだいたいどういうものか、わかるようになりました。私はやっぱり古風な棋士なのかもしれませんね(笑)。いまは木の駒を持ってない若手もいるかもしれません」
飯島の所蔵する銘駒は自宅での研究会で使われている。
十数年前、飯島は自宅を新築する際、立派な和室を作った。以来、そこに棋士や奨励会員たちを招き続けてきた。
「研究会の記録はすべてノートにつけています。対等な立場で先手、後手、1回ずつやって不公平をなくすようにしています。私はやっぱり一日中コンピューター将棋ソフトをいじっているより、研究会で人と指す方が好きなんです」
飯島の手元に残されている十数冊のノートには、錚々たる棋士たちが出席してきた詳細な記録が残されている。
「いまの関東の若手棋士だと、来てない人の方が少ないかもしれません。増田さん(康宏現六段、25)は奨励会1級の頃から来てくれていました。増田さんの師匠の森下卓先生(九段、56)から『この子は才能があるから、研究会に入れてくれないか』と言われて、指してみたら本当に強かった。他には近藤誠也さん(現七段、26)や梶浦さん(宏孝現七段、27)など、当時奨励会だった人たちがいま輝いてる感じです。それは非常にうれしいですね」