「永瀬拓矢王座(30)もかなり長く来てくれていました。『ダメなものはダメ』ときっぱり言ってくれるからいいんです。先輩を立てようとして『素晴らしい手だと思います』とかウソを言ってくるより、『先生、そういう手はいま誰も指さないですよ』と正直に言ってくれる後輩の方が好きです。いまの奨励会員は将棋に真面目に向き合う子が多い。若手からいろいろ教わる代わりに、私は昔の将棋界のことを話したりしています」
先輩の目から見て、伸びる後輩はわかったりする?
「不思議なことにだいたいわかるんです。自分に才能を見抜く力があるとは思いません。だけどうちに来て、食事の時間も含めて8時間ぐらい一緒にいると、将棋を見る以外に所作とかでも『この子はちょっと普通ではない』『天才かもしれない』と感じることがある。そうすると、やっぱりだいたい当たるんです」
現代の将棋界を代表する大天才といえば、藤井聡太竜王だ。
飯島はいまから7年前、藤井がまだ13歳で三段リーグに参加する前、練習で指したことがある。
「ここ(自宅)ではなくて新宿の将棋クラブでしたけれど。『関西奨励会に藤井というすごいのがいる』とは関東にも聞こえていました。でも私も当時、順位戦では(A級に次ぐ上位クラスの)B級1組に所属していたときです。『まあ大丈夫だろう』と思っていた。それでもやったら負かされて『やばい。おれももう終わりだ』と落ち込みました(苦笑)。でも、いまから思えば、藤井さんはもうそれだけ強かったんです。ショックを受ける必要はなかった。羽生(善治)先生、渡辺(明)さん、藤井さんもそうですけれど、中学生で棋士になった人たちはみんなすごいですよ」
(文/松本博文)
※松本博文著『棋承転結 24の物語 棋士たちのいま』(朝日新聞出版)から一部抜粋/AERA2023年1月30日号初出