米国はそれも計算済みのように見える。中国が強面に出てくれば、対中国の規制を強化したり、日韓や欧州に規制への参加を呼びかけたりする口実になる。また、台湾有事のリスクが高まったとして、日本などに米国製武器を爆買いさせるセールストークにも使える。
最先端半導体の製造ができないという点では、実は米国も同様だ。米国では、スパコンを作る能力はあっても、そのための最先端半導体の製造では、最後まで残っていたインテルが競争から脱落し、TSMCとサムスンの数年後を追いかけるという状況になった。ただし、最先端半導体の設計開発の能力を持つ企業は、エヌビディアをはじめ米国にはいくつもある。足りないのは製造のみだ。
だからこそ、米国は、TSMCとサムスンに米国内での「最先端」半導体製造工場の建設を執拗に要請し、両者はこれをのんだ。
TSMCが当初は抵抗していたのに最終的に受け入れたのは、米国が本気で中国の封じ込めに動いていることを理解し、台湾有事になる可能性もあると判断して、その時の保険に最先端半導体の利用企業が集中する米国に工場建設をすることにしたと見ることができる。
その意味では、米国の半導体規制は中国を台湾有事に駆り立てる可能性ありというのがTSMCの見立てだということだ。
中国は、平和裡に台湾を統合できればそれがベストだと考えている。しかし、それは米国にとっては最悪だ。なぜなら、平和的統合なら国際法的には何の問題もなく受け入れるしかない。その結果、TSMCをはじめとする世界の先端半導体産業の中枢を中国に取られてしまう。それは、生成AIでの覇権も中国に取られ、米国は覇権を失うことにつながる。
バイデン大統領がここまで強硬に対中半導体規制を強化するのは、そうした考えに基づいているからだろう。
平和的統合阻止のためには、台湾市民の対中国感情を悪化させ、独立派を支援することが望ましい。台湾独立を恐れて中国が台湾侵攻したら、台湾防衛を隠れ蓑に先端半導体工場を破壊するのも選択肢に入っているだろう。それでも平和的統合よりはマシだ。