藤井聡太棋聖(七冠)が圧倒的な強さを見せつけて棋聖戦を4連覇、タイトル防衛に成功した。今年度中の「藤井八冠」は、実現なるのか。AERA 2023年7月31日号の記事を紹介する。
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またも圧巻の防衛劇だった。
藤井聡太棋聖(七冠)に佐々木大地七段が挑戦する第94期棋聖戦五番勝負。第4局は7月18日、新潟市でおこなわれた。結果は84手で藤井が勝利。3勝1敗でシリーズを制した。
佐々木は若手の有望株だ。トーナメントでは渡辺明名人(現九段)、永瀬拓矢王座を連破。王位戦でも藤井への挑戦権を獲得している。タイトル初挑戦の佐々木が「下剋上」を起こす可能性は十分に考えられた。
■おそるべき指し回し
第1局はベトナムでおこなわれた。現代最前線の戦型となり、先手の藤井が押し切った。
第2局は佐々木リードで終盤に入ったものの、藤井が追い上げて逆転。しかしそこから藤井が最善の順を逃し、佐々木が底力を見せて再逆転。藤井の八冠制覇はそう容易ではないと思わせる結末となった。
第3局、藤井は玉を危険地帯の最前線にまで押し進め、佐々木の攻めを抑え込む。観戦者をうならせるおそるべき指し回しで、藤井が完勝を収めた。
第4局は佐々木先手で相掛かり。藤井がリードするも佐々木が持ちこたえ、勝敗不明の終盤に入った。74手目、少し苦しいと見た藤井は、取れる相手の飛車を取らず、金取りに歩を成った。これが藤井の勝負術だ。
「手を渡して勝負しようかなと思いました」(藤井)
佐々木は頭に手をやる。解説者も、ネットで推移を見つめる多くの観戦者も驚いた。藤井の勝負手は、厳密には最善手ではなかった。佐々木にチャンスが生じる。しかし勝ちを読み切るのは容易ではない。
76手目まで進み、持ち時間4時間のうち、残りは佐々木28分、藤井14分。コンピューター将棋(AI)が示す評価値は、佐々木勝勢と示されていた。ここで藤井陣に香を打ち捨てる絶妙手があるのだ。ただし難易度はあまりに高い。佐々木は7分考え、違う場所に香を打つ。この瞬間、佐々木の手から勝利がすり抜けていった。感想戦で関係者から幻の妙手を聞かされた佐々木は「ひえー」と声をあげた。
「これが見えないと勝負にならないんですね」「ハードルが高すぎますね」(佐々木)
84手目、藤井は端に攻防の角を打つ。佐々木が潔く投了し、五番勝負は幕を閉じた。