プーチン大統領をめぐり、「自らの安全確保のための『影武者』が存在するのでは」という説が注目されている。その真相をロシア研究の専門家に聞いた。AERA 2023年7月24日号の記事を紹介する。
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プーチン氏に「影武者」がいる。にわかには信じがたい話だろう。しかし、ロシア研究が専門で拓殖大学特任教授の名越健郎さんは「真偽はわからないが、決して荒唐無稽な噂でもない。あり得る話です」と話す。
取り沙汰され始めたのは昨年12月5日。爆破されたクリミア大橋の復旧現場を、プーチン氏が自分で車を運転して視察したときだという。
「その日は夕方からモスクワ中心部で式典もあり、プーチンはスーツ姿で出席して挨拶しています。しかし、ラフな服装で視察したクリミア大橋からモスクワまでは最短でも6時間。視察が早朝なら物理的に可能ではありますが、少し不自然です」
■右腕を自由に
その後も今年3月14日、ブリヤート共和国のウランウデにある軍用ヘリコプター工場を視察したプーチン氏が、古傷がありふだんはあまり動かさないとされる右腕を自由に動かす姿にも「影武者では」と新興メディアやSNSが反応。また同月18、19日に占領地マリウポリなどを視察、自ら運転して市内に入り市民と話す姿が大統領府HPで公開されたが、そこにもひっかかる点があると名越さんは言う。
「訪問翌日の20日から2泊3日で中国の習近平国家主席がモスクワを公式訪問しているんです。大事な首脳会談の直前に、よくそんな余裕があったなと」
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の部隊による「プリゴジンの乱」が起きた6月23日。その前日にも奇妙なことが起きた。プーチン氏がドイツ軍侵攻記念日の戦没者慰霊行事に出席する動画と、クレムリンで安全保障会議をオンラインで主宰する動画がほぼ同じ時間帯に大統領府HPにアップされたのだ。
「慎重さを欠いただけかもしれません。ただわずか20分ほどの差で異なる場所にプーチンが現れたことで、国内では影武者説がまた噴出していました」