日本では、なんでもない街並みに人知れぬ工夫が施されているのも興味深いものです。街路樹、道路のでこぼこ模様、マンホールなど、一見なんでもないものもちゃんと考え抜かれたデザインをしている──というのはNHK・Eテレのおもしろ番組「マチスコープ」の受け売りですが、街のさまざま疑問を解き明かすこの番組を、特にアメリカ人の夫は「こんな番組はアメリカでは作れないだろう」といって子どもと夢中で観ています。もちろんアメリカだって都市工学の技術は優れているでしょうが、日本の街はとにかく多くの人がひしめき合って暮らし、前述したように商業店舗も住宅も、工場や教育機関も隣り合わせ。長い時間をかけて有機的に混ざり合い、渾然一体となって膨れ上がった街並みだからこそ、多様な人々が快適に暮らせるよう、アメリカ以上に工夫が施されているのではないかと思います。

 建物のデザインがバラバラで、名前のついていない道や交差点がそこらじゅうにあり、誰の持ち物かはっきりしない土地もある。そんな日本の雑然とした街並みを批判する声もありますが、私は個人的には愛着を感じます。どこに通じているかわからないくねくね路地を進んでいくときのワクワク、ふと道祖神と目が合って感じるドキドキは、アメリカでは味わえないと思うからです。この夏は子どもと散歩に出かけ、ご近所の歴史や都市デザインを探索しに行こうと考えています。

〇大井美紗子(おおい・みさこ)
ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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