町工場のような製麺所の一角で、主人が手ずから打つうどんを、100円、200円という値段で出して、それを受け取った客が、薬味や天ぷらなどを自分で盛る。中には「ネギなら隣の畑から取ってきて」と言われるような、田園の中の名物店もあって、それが大いに人気を博していた。

 焼鳥の焼き場を店頭に置くことで店を繁盛させた成功体験が、粟田にはあった。気取りのない空間でうどんが打たれ、客が自由勝手に好みの一皿を作る。そのざっくばらんな楽しさを再現したら、行ける。00年11月に「丸亀製麺」1号店を加古川市に出店。このうどん業態が会社を救っていく。

 スケールメリットを追求するチェーン店理論では、セントラルキッチン方式、ワンオペレーションが鉄則とされる。丸亀製麺の設計は、そんな業界のセオリーをことごとくぶち破るものだった。オープンキッチンの店舗に製麺機を設置して、ライブでうどんを打つ。材料は北海道産の小麦粉、塩、水だけで、日々変わる気温や湿度に合わせて、細かく配合していく。客は細長い注文カウンターに沿って、欲しいうどんをスタッフに伝え、その場で作られたものを受け取り、後は自由に薬味や天ぷらを加えて、最後に会計。その過程で目にするのは、6、7人ものスタッフが厨房(ちゅうぼう)でひきも切らずに立ち働いている様子だ。

「ショッピングセンターのフードコートに出店した時は、ディベロッパーから『そんな効率の悪い店がうまくいくはずがない』と、強烈にダメ出しされました。でも、よそがやらないから成功する。お客さまは非効率で人間的な手間に感動して、リピートしてくださるんです」

 以後、ラーメン、焼きそばの業態も加えて出店は加速。06年の東証マザーズ上場を経て、08年にはついに東証一部上場を果たした。

(文中敬称略)

(文・清野由美)

※記事の続きはAERA 2023年7月17日号でご覧いただけます

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