トリドールホールディングス代表取締役社長兼CEO、粟田貴也。丸亀製麺をはじめ、ハワイアンカフェや焼鳥店など、1770店舗もの飲食店を経営するトリドールホールディングス。今では海外にも店舗を拡大するが、原点は粟田貴也が兵庫・加古川で開いた1軒の焼鳥店。自ら焼鳥を焼き、客にふるまった。そこから38年、いつも大きな夢を語ってきた。顧客に感動してもらいたい。従業員を喜ばせたい。今も大きな夢は消えない。
【写真】商品開発ラボで定例の試食。ラボは丸亀製麺の店舗を再現している
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「はんぺん、玉子、さつま揚げ、あとコンニャクも貰(もら)いましょうか」
東京都江東区の砂町銀座商店街の軒先で、おでんを選びながら、店のおばちゃんと気さくに会話する男性。ノーネクタイにスニーカー姿で誰よりも腰が低く、人とすれ違う時は「どうぞ、どうぞ」と、すぐさま道をゆずる。
「こういう下町の雰囲気が、もとから好きなんです。赤羽、麻布十番、武蔵小山。そんな商店街を土日によく歩いていますねえ」
柔らかな神戸イントネーションで語る彼、粟田貴也(あわたたかや・61)は、一見すると、気のいい町場の商店主のようだ。しかし実像は違う。「丸亀製麺」を主力に、ハワイアンカフェ、焼鳥店、ラーメン店、立ち飲み屋など1770もの飲食店を内外で展開する「トリドールホールディングス」の創業者であり、代表取締役社長兼CEOというプロ経営者なのである。
コロナ禍で外食産業が被った痛手は大きかった。生活に欠かせないといわれながら、緊急事態宣言、「まん防」措置が重なるにつれ、大量閉店、倒産が相次ぎ、人手もどんどん離れていった。それまで店舗数、売り上げとも右肩上がりで伸ばし続けていたトリドールも、2020年の4月に利益は半減。21年3月期の売り上げ収益は前年比でマイナス14%という薄暗闇の中をさまよった。
しかし、逆境でもテイクアウト需要の掘り起こし、海外市場への進出と攻める手を緩めず、事業拡大を押し進めた。コロナのトンネルを抜けた現在、店舗数と売り上げは上昇カーブに戻り、23年3月期の決算では過去最高の売り上げ収益1883億円を達成。国内の外食企業では第6位、うどん・そば業態ではぶっちぎりの1位をひた走る。
■23歳で焼鳥店を出店 連日閑古鳥が鳴いた
「いえ、成功したとはまったく思っていません。上にはゼンショーさん、マクドナルドさんといったガリバー企業がいて、僕らはまだまだチャレンジャー。今日より明日の方が、もっと前に行ける。常に変わっていく風景を見続けていたい。若いころの闘争心、ビッグになりたいという気持ちはずっと持っています」