青木真一校長(撮影/米倉昭仁)
青木真一校長(撮影/米倉昭仁)

 手書きのグラフを前にして、青木校長はこう語った。

「誤解を恐れずにいえば、これまでの教員の仕事というのは経験と勘で行う、自己満足の世界だったんです。特にベテランの教員は『自分はいい授業をやっている』と思い込みがちです。でも実際は、授業についていけず、ただ不安を感じてじっと座っている生徒がいる。それが続けばやる気をなくしてしまう。データはうそをつきません。これまではわからなかった生徒の不安を可視化して、教員に知ってもらうことで、教え方を見直してほしいんです」

 正直、筆者が想像していた使い方とはまったく違っていた。つまり、同校ではこのシステムを使って、管理教育とは真逆のことをやろうとしていたのだ。

■管理されるのは教員?

 では、記事のタイトルにあるように、生徒の「聞いてるふり」をチェックするような使い方はしていないのか。

「授業中、教員が講義をすると同時に、30人の生徒のグラフを確認するなんて、無理ですよ。生徒が自主学習しているときにデータを見て、グラフが下がっている子に声かけをすることはありますが、実際は、その日の夕方、グラフを確認して授業内容を振り返る教員が多い」

 一方、新たな疑問も浮かんできた。授業内容のよし悪しの判定、つまり、教員の仕事ぶりの評価や、教員の管理にこのシステムが使われることはないのか。

 すると、即答で「それは、(管理職の)私がやらなければいいことだと思っています」。

 そして、こう続けた。

「そもそも教員のパフォーマンスより、生徒の学習履歴(スタディログ)のほうが重要です。昔は、その先生にしかできないような『芸』の域で授業をされると、『教え方が上手』などと言われました。しかし、今は『先生が教えること』よりも『生徒が自分で何を学んだか』のほうが重要だと思っています」

■緊張は人間関係の悩みかも

 現在、このシステムは1年生の1クラスで実証実験が行われている。

 5時間目の社会の授業を見学させてもらった。教室に入ると、すでに生徒たちは脈拍を測定する黒いリストバンドを身につけている。

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「集中度」が表示されるシステムではない