「何か新製品をつけているって感じで、すごいなって思います。親もそう言っていました」と、屈託なく語る女子生徒。
「自分が緊張していたら、どうしようと、ちょっと心配なところがありました。でも、それがわかるのは、うれしい」と話す男子生徒もいた。
得られたデータは生徒たちにフィードバックされる。もちろん、データには生徒ごとにIDとパスワードが設定されている。
「このデータは子どもたちのものですから、それを返します。それを見ることで、自分たちが学習内容に対してどう取り組んだのかがはっきりと分かります。自分のデータをもとにして、自己調整の学びにつなげていってほしい」と、青木校長は語る。
そのとき、筆者の脳裏に浮かんだのは、昨年、サッカーワールドカップカタール大会の取材をしたときに知ったことだ。
世界ランクの選手の多くは練習の際、GPSや心拍計測器などのデバイスを装着している。選手の動きはデバイスから発信された約100項目のデータをもとに「見える化」され、選手自身が練習の内容が自分に合っているのか、能力の向上につながっているのか、客観的な数値から知ることができる。
さらに、指導者も自分の指導が本当に選手のためになっているのか、「答え合わせ」ができるようになり、数値を分析してトレーニング内容を見直すようになった。
■振り返りは最も強力な力
IoT機器を生かした教育に詳しい教育工学者で、同校の取り組みを見てきた東京工業大学赤堀侃司(あかほりかんじ)名誉教授は、得られたデータを子どもたちに返していく重要性を語る。
「そこで、何が行われるかというと、『振り返り』なんですよ。データを見返すと、どんな問題をどう解いていたときに、リラックスしていたのか、緊張していたのかが自分でわかる。その『気づき』こそが、子どもたちの学びにつながる最も強力な力なんです」
筆者が目にした学校現場は、多くの批判コメントが書き込まれた「集中しない生徒をリアルタイムで把握 教員からは期待」という報道の印象とはかなり異なっていた。
ちなみに記事で「管理強化」を指摘した識者に対して、青木校長はこう言及した。
「本校の取り組みを見たこともなければ、こちらが直接説明したこともありません」
その言葉には、現場の教育者としてのプライドが感じられた。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)