これは複数進行がいくらでも可能なアプリで、自分が選ばれるのは単純に確率や相性、タイミングの問題だと誰もが納得しているから。だからマッチング相手との言い争いやドロドロした泥沼感情はほとんど生まれず、ただ「ダメなら次へ行けばいい」という流れる水のように淡々とした感覚でいられる。

 ミクさんのように自分の素の姿への評価が過剰に気になる人でも、必要以上に距離を縮めることなく、お互いのドロドロした感情に悩まされることもない。

 つまり若い世代にとってアプリはドラマチックな出会いの可能性や、韓流ドラマのようなロマンチックな恋への期待値も高くない代わりに、精神的ストレスや相手に傷つけられるリスクも少ない現実的な出会いの場なのだ。

 アプリでの出会い方はコンビニでの買い物の便利さとよく似ている。

 そんなに高価なものや特別なものはないが、自分の求める程度のクオリティは手に入る。自己紹介やメッセージのフォーマットがある分、気楽に参入できるし、嫌になればいつでも出ていくことができる。

 その心地よさが、逆にそこから出られない中毒性を生み出しているとも言える。

 ネガティヴな感情を恐れる若い世代には、「修羅場が発生しにくい」「負の感情が直接、伝わりにくい」という特性は、何より大きなメリットなのだ。

 修羅場がない恋愛なんて恋愛じゃない、と思う人にはアプリ婚活は向かない。

●速水由紀子(はやみ・ゆきこ)
大学卒業後、新聞社記者を経てフリー・ジャーナリストとなる。「AERA」他紙誌での取材・執筆活動等で活躍。女性や若者の意識、家族、セクシャリティ、少年少女犯罪などをテーマとする。映像世界にも造詣が深い。著書に『あなたはもう幻想の女しか抱けない』(筑摩書房)『家族卒業』(朝日文庫)『働く私に究極の花道はあるか?』(小学館)『恋愛できない男たち』(大和書房)『ワン婚─犬を飼うように、男と暮らしたい』(メタローグ)『「つながり」という危ない快楽─格差のドアが閉じていく』(筑摩書房)、共著に『サイファ覚醒せよ!─世界の新解読バイブル』(筑摩書房)『不純異性交遊マニュアル』(筑摩書房)などがある。