賃料は部屋の大きさで異なるが、3万8千円から4万2千円。ここに共益費2万円と、子ども一人につき5千円の加算がつく。共益費には水道光熱費と日用品が含まれ、月に7万円あれば、他に食費や子どもへの出費などの負担で生活できることになる。
希望者は竹田さんと面談し、入居OKとなれば契約にはデポジットが要るが、保証人・保証会社、敷金礼金も不要。レンタルの布団も共用の食器もあるので、かばん一つで駆け込める。
2歳の娘と伊勢原駅に降り立った女性(29)はここで、娘の3回目の誕生日を迎えた。元夫は育児も家事も将来も、何もかも分かち合えない人だった。けんかが絶えず、娘に精神的要因による疾患が生じたことで、離婚を決意。
「離婚で心苦しかったのは、娘から友達を引き離してしまったこと。シェアハウスなら、いろんな子どもと一緒に暮らせるし、娘も寂しくないだろうと」
伊勢原に住むと決めたのは、面接で仕事がないと正直に話した時のこと。竹田さんは満面の笑みで、こう言った。
「じゃ、どうにかしようか、だね!」
不安しかなかった日々に、ようやく光が差した瞬間だった。
「シェアハウスには子どもが3人いて、娘が楽しそうにしているのが何よりでした。恵子さんが交流会を開いてくれ、子どもは自然な感じでなじんで。私も先輩住人のシングルマザーの方と話せたことが、すごくよかったです」
これを機に、竹田さんは空き家を活用した、弱者を支える循環型システムを作り上げていく。就学前の子どもはすぐに保育園に入れず、仕事に就けないという「壁」を前に、竹田さんは「職場を作ってしまおう」と、障がい者のグループホームを立ち上げた。今や、その数、伊勢原市と秦野市に8棟。さらに、みんなに無農薬野菜を食べさせたいと農園を事業化、ここはシングルマザーたちの主な職場でもある。月から土までの常設「子ども食堂」も、オープン間近。障がい者の作業所、シングルマザーの職場にもなる、地域に開かれた居場所ができあがる。
「社会で、みんなで子育てしようよって思いますね。うちは、“社会問題解決型不動産”だと自負しています」
シングルマザーを「パート正社員」として無期雇用し、完全在宅勤務できる環境を整えている「Tsumugu Works(つむぐ ワークス)」社長の小原光弘さん(29)も同じ思いだ。
「シングルマザーの子でも、自分の思うような未来を描いてほしい。子どもがのびのびと成長できることに貢献できるのは、僕の一番の幸せです」
シングルマザーの苦しみに今、ようやく一条の光が見えた。それは紛れもない喜びであり、確かな希望だ。(ノンフィクションライター・黒川祥子)
※AERA 2023年7月10日号より抜粋