右から2人目が竹田恵子さん。オープン間近の「めぐみキッチン」でメニューを確認中。昼はカフェ、夕方からは常設の子ども食堂に(撮影/横関一浩)
右から2人目が竹田恵子さん。オープン間近の「めぐみキッチン」でメニューを確認中。昼はカフェ、夕方からは常設の子ども食堂に(撮影/横関一浩)

 仕事に就けない、賃貸を借りられない──。そんなシングルマザーが抱える困難に立ち向かってきた不動産会社が神奈川県伊勢原市にある。めぐみ不動産コンサルティングだ。シングルマザーのために、保証人・保証会社、敷金礼金も不要のシェアハウスを立ち上げた。事業は住まいの提供にとどまらず、彼女たちの職場作りにも及んでいる。同社の取り組みに迫った。AERA 2023年7月10日号の記事を紹介する。

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 シングルマザーにとって、「住居」も大きな悩みだ。母子世帯というだけで大家から嫌がられ、保証人という「壁」もある。私自身も母子家庭になった直後、天を仰いだ「困難」だった。

「住居」ばかりか、仕事も食も居場所まで、丸ごとシングルマザーを受け止める地域がある。それが、神奈川県伊勢原市だ。

 全ては2016年7月、めぐみ不動産コンサルティング社長の竹田恵子さん(47)が、シングルマザーのシェアハウスを立ち上げたことに始まる。2人の子を持つシングルマザーとして、不動産会社の営業職に就き、懸命に子育てをしてきた竹田さんはある日、子ども食堂のニュースでシングルマザーの貧困の深刻化を知り、衝撃を受けた。「子ども食堂をやりたい」と思ったが、会社員ではどうにもならない。

「シングルマザーの貧困に対し、私にできることは何だろうって考えた時、不動産という仕事と、空き家という社会問題がある。ならば、シングルマザー同士が一つ屋根の下に住んで、相互協力しながら暮らしていけば、みんなが自立していけるのではないか」

 竹田さんは16年にめぐみ不動産を起業すると同時に、シェアハウスに向けて動きだす。4月に物件に出合い、サブリースで借り受け、リフォームや家具や家電をそろえて7月に完成した。

 漠然と抱いていた、シェアハウスのイメージが心地よく覆される。外観はタイル張り、2階建ての格調高い和風建築が目指すシェアハウスだった。一軒に8家族が住めるのだから、どれだけの豪邸か。共用のキッチンと浴室が2カ所、洗面所とトイレが3カ所、共用スペースのリビングも2カ所、畳敷きの8畳のスペースは、子どもたちが思いっきり遊べる空間だ。ここは、子ども同士の育ち合いの場でもあるのだ。

シェアハウスの一角には子どものおもちゃがいろいろ(撮影/横関一浩)
シェアハウスの一角には子どものおもちゃがいろいろ(撮影/横関一浩)

■日当たりのよい個室を用意「惨めな思いさせたくない」

 全8室の個室は日当たりの良い出窓もあり、天井は高く、ゆったりと落ち着ける。子どもの手を引き、命からがら駆け込んできたシングルマザーに、安心して羽を休めていいんだと、包み込んでくれるような空間だ。これこそ、「安っぽい空間で、惨めな思いはさせたくない」と言う竹田さんの優しさだ。

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