稲毛公園でも30分程度だった。この後は、出発地点の川崎駅東口ロータリーに向かった。雨の中、大通りを真っすぐ川崎駅に向かった。到着したのは午後9時15分ごろだった。
すでにホームレスが1人いた。駅東口のロータリーは広く、ホームレスも多いため、100メートル程度離れた2カ所に分かれて配るという。この日は計10人くらいだった。なかには、約1時間かけて歩いてきたという男性もいた。
この夜は3カ所で計25人。すべて配り終えたのは午後10時近くだった。みんなびしょぬれで帰路についた。
●29歳ホームレス 普通の生活に戻りたい
活動に密着してまず感じたのは、ホームレスの年代が幅広いということだった。高齢の人が多いというイメージだったが、40代もそこそこいて、なかには20代もいた。
29歳の男性に話を聞くと……。
「僕だって普通の成果に戻って、恋人を作ったりしたいですよ。好きでこんな生活を送っていない」
男性は、路上生活を始めてから1年が経とうとしている。2022年9月まで、自動車メーカーの倉庫勤務をしていた。ある日、人員削減を理由に「あと1カ月で辞めてほしい」と告げられたという。泣く泣く退社した男性は家賃を払えなくなって家も追い出され、路上生活をすることになった。両親はすでに他界し、親族にも頼れる人がいない。生活保護は受けていないという。
「路上生活をしていて、市役所の職員が話しかけてくることはなく、生活保護をもらうには自ら行かなければいけない。ただ、恥ずかしいという思いが強くて。できることなら、自力でがんばりたくて」
床に就くのは、いつも公園や家電量販店の近く。そうした場所はホームレス仲間から教えてもらったという。また、炊き出しの日なども教えてもらい、日々の生活を送っている。通行人から「汚い」と心無い言葉を投げつけられることもあるという。
この男性は、軽度の知的障害を抱えているという。日常会話や単純作業などは普通にできて生活に支障はないが、複雑なことをしたり、考えたりするのは不得意といい、金銭管理など計画的な生活が難しいという。男性のような、知的能力がいわゆる障害とされないレベルの人のなかには、社会生活は不自由に感じ、再就職が難しいケースがあるという。