それでは、これらの大会に関してはさておき、松本はお笑い界では絶対的な権威となっているのか。この点についても、そういう側面が全くないとは言えないが、そう言い切れるほどはっきりした何かがあるわけではない、というのが個人的な意見である。
松本が絶対的な権威になっていて、彼が認める笑いだけが正しい笑いであり、それ以外のものが排除されているのだとすれば、たしかに問題ではあるかもしれない。しかし、実態はどうかというと、あまりそういうふうになっているとは思えない。
すでにお笑い文化は多様化していて、多様なお笑いが認められている。そして、お笑い界のレジェンドの中で比較すると、松本はむしろ多様なお笑いに対して寛容な立場であるとも思う。
中田自身も、自分は松本には認められないようなジャンルで戦ってきた、という趣旨のことを語っていたが、過去には「武勇伝」「Perfect Human」「中田敦彦のYouTube大学」と、多くの人に支持されるヒット作を出し続けていて、それなりに評価も得ている。客観的に見て、そんな彼がお笑い界で不遇な立場に置かれているとは思えない。
さらに言うと、松本を絶対的な権力を振るう独裁者のようなイメージで語るのも、ミスリードではないかという気がする。松本はどちらかと言うと、権力なんて持ちたくないと思っている側の人間だ。彼は自分が中心となる番組でもいつもどこかだるそうにしているし、最近は口を開けば「引退したい」という話ばかりしている。権力の座にしがみつきたい、影響力を誇示したい、といった欲望が感じられるような人間ではない。
では、実際に松本が権威ある立場に就いているように見えるのはなぜかというと、必要に応じて周りの人が祭り上げているからだ。松本は神輿として担がれているだけであり、本人がその方向に誘導している感じはしない。
もちろん、松本にも血気盛んな時代はあったし、そのときにはもっとギラギラしていて、挑発的、排他的な言動もあった。しかし、ここ10年の松本にはそういうものを感じることはあまりない。