では、顔にできた良性のシミと皮膚がんの区別は、どれくらいのスキルの医師ができるのでしょうか? これに関しては、経験上、皮膚科専門医を取得した医師でないと難しいと考えています。

 例えば、美容皮膚科では、皮膚科の研修を1~2カ月しか行っていない医師がレーザー治療を担当することが多々あります。数カ月の研修では、顔のシミを正しく診断することは不可能でしょう。なにせ、ほくろのがんと呼ばれる悪性黒色腫は、大学病院でも年に数十人程度。そのうち顔にできた悪性黒色腫は、1例あるかどうかです。つまり、数カ月の皮膚科研修だけで、顔にできた悪性黒色腫を診ることはほぼないのです。皮膚科専門医であれば、5年間の研修と専門医認定試験を通して顔のシミについてもしっかり学ぶことになります。それでも、悪性か良性か判断に悩むケースは存在するほど、診断には難しさが残ります。

 顔にできたシミが、がんかどうかわからない医師がレーザー治療を行う危険性が世の中にはまだ十分広まっていないように感じています。

 もう一つの問題点は、美容皮膚科では皮膚のトラブルに対応できないケースがある、ということです。例えば、ニキビの治療に合併したかぶれが診断できないといった場合や、脱毛治療によってやけどを起こしてしまったり、さらには、そのやけどの治療ができなかったりといった具合です。皮膚疾患に対する幅広い知識がないと、少し変わったことが起きた皮膚病変に対応ができないのです。

 美容皮膚科の領域では、働く医師を確保するため、未経験の医師を高収入で募集しており、多くの若い医師が皮膚科の勉強をほとんどしないまま美容の世界へと足を踏み入れています。勉強不足なまま美容の世界にいってしまう医師もどうかと思いますが、きちんとした研修体制をつくってこなかった大学側にも問題があると考えています。そういうこともあり、近畿大学皮膚科では、一から美容を研修できる美容チームをつくったわけです。

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外部からも専門の医師がチームに加わった