■プロデューサーではなく“セールスマン”
その他、『almost people』という映画の劇伴も制作しています。これは先方からオファーを頂いた後に、僕のほうから「これが合うんじゃないですか?」とカタログサイトの音源を持っていったんですよ。生演奏の部分は僕がやるんですが、基本的には工房のカタログからピックアップして、それをお買い上げいただいた。黎明期はセールスマンをやらないといけない(笑)。セレクトショップの店員みたいで楽しいですけど(笑)。
もう一つは「Q/N/K」というプロジェクト。僕と元SIMI LABのQNによるコラボレーション・ユニットですが、半分は新音楽制作工房のビートメイカーが作り、半分はバンドセットという構成になっています。アルバムのためにビートを集めたら、アッという間に100トラックくらい出てきて。総じて高いクオリティーだったのですが、そのなかからQNと一緒に5曲を選んで。
そのほかにも映像作家の方が楽曲を購入してくれたり、webでのポッドキャスト番組のテーマ曲に使用されたり、少しずつ認知されてきたのかなと。とはいえ、まだ始まったばかりでヨチヨチ歩きなので、今は業務内容や実績をまとめたコーポレートサイトを準備しているところです。
――菊地さんはメンバーのみなさんの作品をプロモーションしているというか。プロデュースしているわけではないんですね。
まったく違います。いくつかプロデュース業もやりましたけど、正直、向いてないんですよ。「売れるためにこうしろ」と強制できないし、アーティストから「こうしたいです」と反論されると、「いいよ」って言っちゃうので(笑)。それはプロデューサーとして市場で売るという責任を放棄しているとも言えるし、ダメな親みたいな状態になってしまうんですよ。アイドル産業のように「ここに入ってきたからには、上の言うことは聞かなきゃいけない」という現場は効率がいいし、クオリティーも上げやすいと思うんですが、僕には向いてない。自己プロデュースしかできないですね。僕がたどり着いた道はギルドだったんだなあと思いました。
――なるほど。これまで通りの授業も行っているんですか?
月に2回集まって、楽曲を提出し、みんなで批評し合うことは今も続けています。その時間が1番楽しいんです(笑)。当たり前ですけど、クライアントから依頼を受けて音楽を作るのは大変じゃないですか。新音楽制作工房にはいろんなタイプの人間がいて、作風もそれぞれ違うんですが、とにかくクオリティーが高いし、もし将来、彼らが金儲けしたいと考えだすとしても、かなり先か、高い確率でそれは無いと思います。我々は既得権益がないので、どの業界に対しても格安でやっています。それよりも我々のブランディングと実力が理解され、日本のあらゆる、音楽を必要とする現場に音源を提供することで、何かが根底から変わる。例えばニュースショーのジングル一つとっても、低予算のアートフィルムに流れる劇伴一つとっても、アメリカと日本ではクオリティの差がありすぎます。生活に密着しているので、実際に変わるまで気がつくエンドユーザーはいません。
とまあ、理念は業界改革みたいな大袈裟なことにつながってしまうんですが(笑)。改革は目的格にはない。月2回の集まりはただただ楽しいです。僕はトラブルでも病気ですら、楽しく乗り越えないと気が済まない楽しい嗜好なんで(笑)。作品はアーカイブしているし、新作も常にカタログにアップしています。