「Uber Eatsよりも、電話をして出前をとることを選ぶ」という菊地成孔さん(撮影/写真映像部・高野楓菜)
「Uber Eatsよりも、電話をして出前をとることを選ぶ」という菊地成孔さん(撮影/写真映像部・高野楓菜)

――現在は音楽制作もミーティングもすべてオンラインで完結できますが、同じ場所に集まって批評し合う場があるのも興味深いです。

 今は至る所でコミュニケーション障害が起きていますからね。上司と話ができない、恋人と痴話ゲンカが絶えない、家族もウザい、となると、人は絶対に嫌なことを言わないChat GPTとしかコミュニュケーション出来なくなります(笑)。生身の対人拒否傾向はずっと流れている線ですが、言語コミュニュケーションもやばい時代になっていますよね。僕の精神分析医だった医師も「人によってはカウンセリングもChat GPTのほうがいいかもしれない」と言っていました。

昭和では、回転寿司屋の寿司をロボットが握っているなんてディストピアでした。ただ、僕はまったく逆で、なるべく人と接したいんですよ。タクシーも手を上げて止めたいし、Uber Eatsではなくて、蕎麦屋に電話して出前してほしい。料理屋でも洋服屋でも必ず店員としゃべるし、二十世紀的なコミュニケーションの固まりなんですよ、僕は(笑)。コミュニュケーションの怪物だと言える(笑)。なので「新音楽制作工房」でも月に2度、みんなで会っているんでしょうね。

組織の運営も全員の合意で進めているし、著作権や印税などもすべてクリアにしています。もし何らかの受賞があったときは、僕一人ではなく、全員で受け取ろうと思っています。決まったメンバーで制作するわけだから、当然、音楽的な制限もあるんですよ。僕はSNSやらずのガラケー使いで、クリエーターがダメになるかならないかの人体実験中の音楽家です。見知らぬクリエイターとのコラボと言う冒険ではなく、わずか20名のギルドのメンバーと音楽を作って、「作品の質が下がった」ということになればそれは実験の失敗です。まずは映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の音楽がどう評価されるか、ですね。

 (森 朋之)

 きくち・なるよし/1963年千葉県出身。ジャズミュージシャンとしてそのキャリアをスタートし、現在は文筆家、作詞家、作曲家、音楽講師など多彩な活動を行う。1984年にプロデビュー。その後、山下洋輔グループやティポグラフィカ、などに参加する。2004年からは東京大学、東京芸術大学、慶應義塾大学などで教鞭を執り、主にジャズに関する講義を担当。実学の音楽講師としては、02年から就任のアテネフランセ映画美学校/音楽美学講座セオリー科主任講師業、社会人向けに夜学で音楽理論とサキソフォンを教える私塾「ペンギン音楽大学」の講師業を務めている。現在は、菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール、ラディカルな意志のスタイルズ、菊地成孔クインテットのリーダーおよびペンギン音楽大学の塾生からなる「新音楽制作工房」の代表。22年には元SIMI LABのQNとユニット「Q/N/K」も結成し、23年7月にデビューアルバム「21世紀の火星」をリリース。

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