2021年8月。セブン‐イレブンは、ご飯の品質を上げるために協力して欲しいと書いたメールを八代目儀兵衛に送付した。

 1978年、当時は家庭でつくるのが常識だった「おにぎり」を、業界で初めて発売したセブン‐イレブン。以来、おにぎり本来の美味しさを引き出すため、精米方法を変えるなど試行錯誤を重ね独自の進化を遂げてきた。だが「監修」は初だった。

 コンビニジャーナリストの吉岡秀子さんは、こう語る。

「セブン‐イレブンは、世の中の変化に応じ、新しい価値を提供するんだというこだわりが業界の中でももっとも強い。消費者のニーズにあわせバージョンアップしようとした時、新しい視点や技術を持ったお米のプロに参加してもらおうとしたのだと思います」

 一方、八代目儀兵衛の橋本儀兵衛氏は、セブン‐イレブンから「監修依頼」を受けた時のことを、後にこう振り返っている。

「私たちがやっていたことは無駄じゃなかったんだ」

 ブレンド米に懐疑的なセブン‐イレブンに、橋本氏は言った。

「ブレンドというのは足し算ではなく掛け算。いいお米同士を掛け合わせると、単一のお米よりすごいパフォーマンスがでます」

 ワインに例えると、単品ではライトボディだが、ブレンドすることによって、ふくよかで重厚感のあるフルボディになる。お米も同じ。単一銘柄米より、ブレンドした方が、立体的で、奥行きのある、深さのあるお米のおいしさが実現できるという。

 とはいえ、開発は一筋縄ではいかない。

「いろんな工場でお米の精米をされているので、同じようなものになるのか。規模感含め、一番苦労したところではあります」(橋本氏)

 八代目儀兵衛は(1)目利き、(2)精米、(3)ブレンド――を確立してきたお米の匠集団だ。長年培ってきた知見を、セブン‐イレブンのおにぎりの監修に注いだ。

 まず、「目利き」。八代目儀兵衛ではセブン‐イレブンが仕入れている約70種類のお米をすべて炊飯して試食した。しかも通常、お米は「食味計」と呼ばれる機械分析によって点数化されたものが「おいしい」とされる。だが八代目儀兵衛では、一つ一つお米を炊飯しご飯の状態にして食べ、甘味、食感、粒立ちなど“おにぎりに合う”品種を選び出した。

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