いまやその話題を聞かぬ日はない「生成AI」。革新的とされる技術は「学びの場」の変革も促す。どう向き合い、メリットを生かすか。「ChatGPT(チャットGPT)」を推奨する大学の教育現場にヒントがあった。AERA 2023年7月10日号の記事から紹介する。
* * *
チャットGPTを日々の授業に生かしている例もある。東洋大学情報連携学部では今年4月から、チャットGPTに使われている最新言語モデル「GPT-4」を活用した独自の学内システムを開発し、約1500人の学生全員に利用を推奨している。学部長の坂村健さんは「チャットGPTというサービスは通さず、『スラック』という学部内のコミュニケーションツールを通すシステムなので、大学がお金を払って学生は無料で使えるんです」と話す。
学生がチャットGPTを使うことに懸念の声もあるなか、なぜむしろ推奨するのか。坂村さんは「規制をかける必要はまったくありません」と言い切る。
「知的所有権や著作権のことはもちろん重要。でも、他人が作ったものそっくりをリポートに書いて提出するなんて、AIに頼もうがお父さんや友だちに書いてもらおうが、ネットからのコピーでも、昔から『いけないこと』に変わりはない。将棋の藤井聡太さんだってAIを相手に日々研鑽して能力を高め、人間相手の対局のときは自分の力で戦っている。それとどこが違うのでしょう。自分の能力を高めたいと思うなら、AIだって何だって貪欲に使っていいんです」
チャットGPTが何より優れている点は、「対話により学びを深めてくれることだ」と坂村さんは言う。しかも、無限に付き合ってくれる。大学の先生ではそうはいかない。
「だから藤井さんも好きなだけ将棋の腕を磨けるんです。チャットGPTは学生にとって、『しょっちゅう相談に乗ってくれる相手がいる』ということ。またチャットGPTの出力は100%正しいわけじゃない。ハルシネーションといって、事実と異なる内容や無関係な出力がされる幻想もある。『人間みたいなモデル』と言われるゆえんですが、だからこそ、使うことで人間と対話する訓練にもなると思います」
東洋大学の学祖は哲学者の井上円了(えんりょう)だ。坂村さんは情報連携学部の1年生の最初の講義を哲学から始めるが、ヘーゲルの弁証法について生成AIが出してくれる具体例や解説で授業を進めることも。学生からは、生成AIとの対話でヘーゲルの弁証法が初めて理解できた、という声も多いという。
「この先、生成AIは日常生活で普通に使うものになる。だったらいち早く、どう使えばうまくいくのかを習得させ、未来の道具を使いこなす新しい学生を送り出したい」
(編集部・小長光哲郎)
※AERA 2023年7月10日号より抜粋