さらに今回の提訴には、フランスの捜査を止める目的もあると言う。会社法違反などの罪で起訴されたゴーン氏は保釈中の19年12月に関西空港からレバノンへ逃亡し、翌1月に国際刑事警察機構を通じて国際手配された。だがその後、2度にわたりフランスから国際手配を受けているのだ。
「1度目は、ルノー、日産の企業連合統括会社と中東オマーンの販売会社が交わした約1500万ユーロ(約23億6千万円)の金銭授受に関して、資金を不正流用した容疑で22年に手配。さらに今年6月には、ゴーン氏が日産の会長時代にフランスの元司法大臣ラシダ・ダティ氏に不正に100万ドル(約1億4400万円)を渡した容疑で再度、国際手配されたのです」(同)
この国際手配についても、ゴーン氏の思惑があるとみられる。
「不正流用疑惑では21年5月にフランスの捜査当局がレバノンを訪れてゴーン氏を任意で事情聴取。ダティ氏の件では元大臣は21年に起訴され、贈賄疑惑のあるゴーン氏も今年6月にレバノンで尋問を受けています。本人は支払いを否定し、これ以上の捜査が進むのを望んでいません。そのため、日産の提訴を通じてフランス捜査当局へ、『これ以上やれば日産を提訴したように反撃に出る』とのメッセージを暗に送ったのです」(同)
加えて、自身のイメージ戦略もあるようだ。
「ゴーン氏がイメージアップのためにメディアキャンペーンを展開していることや、日産、日本政府、日本司法の被害者として振る舞っていることは、レバノンでは良く知られています。今回の巨額訴訟も、被害者として世間の注目を集める戦略の一つだと思われています」(同)
とはいえゴーン氏は、日本とフランスから手配を受けている身だ。なぜ強気に反撃ができるのだろうか。
ゴーン氏の知人によると、レバノンは「日本やフランスと犯罪人引き渡し条約を結んでいないため、国際手配が出ていてもゴーン氏の身柄は引き渡されないことが大きい」という。
「それにゴーン氏のパスポートはレバノン政府が没収し、本人も返還を求めていないため、任意捜査での出国もできないのです。また、日産によるゴーン氏の不正の証拠と言われているのは、本人のパソコンに残っていたデータを調べた結果などからですが、ゴーン氏は『データが書き換えられているから証拠能力はない』と主張しています。訴状に証拠の捏造を加えているのはそのためです」(ゴーン氏の知人)