ただ、裁判の行方は不透明だ。ゴーン氏が民事訴訟ではなく、ハードルの高い刑事訴訟を求めているためだ。

 レバノンでは、名誉毀損と損害賠償請求をセットにして刑事裁判で争えるが、法務当局が訴状を受理するかは微妙だという。レバノン在住で同国の国家安全保障局長などを歴任した経験を持つ弁護士のアントワーヌ・トラボルシ氏が解説する。

「法務当局がゴーン氏の訴状を刑事訴訟として正式に受理するには原則、レバノン領土内で犯罪が行われたことが条件となります。また、原告のゴーン氏が、日産の犯罪で被害を受けたことやその因果関係を立証できないといけません。訴状は当局に5月18日に届いていますが、今回のケースが刑事訴訟に該当するのかは検討中のため、まだ正式に受理はされていません」

 訴状が受理された場合、日産の対応次第ではゴーン氏有利に裁判が進む可能性があるという。

「訴状の送達を受けても被告が出廷しなければ、欠席のまま裁判は進みます。そうなれば裁判は原告有利に進みがちで、レバノンにある日産の代理店などの財産を差し押さえる根拠になることもあります。もし日産側が裁判に応じないのであれば、早めに請求棄却を求める答弁書を出すことが必要です」(トラボルシ氏)

 その上でトラボルシ氏は、日産側の対応に関してこうアドバイスする。

「特段の事情がなければ、日産はレバノンの司法当局に答弁書を提出した上で反訴を提起し、ゴーン氏が所有するすべての動産と不動産を差し押さえるよう請求すべきです。特にゴーン氏が現在住んでいるレバノンのマンションは、自分が所有しているような印象を与えているので、日産が改めて所有権を主張する請求を行えば、世間のゴーン氏を見る目も変わるでしょう」

 裁判が開かれれば、証拠調べを始めとする手続きに数年単位の時間がかかるとされる。場所もゴーン氏が政財界に人脈を持つレバノンとなれば、日産側の負担はなおさら大きい。

 日産自動車は今回の訴訟に対して「訴状が届いているかどうかも含めて、お話しすることはありません」(広報部)と話している。

(ジャーナリスト 形山昌由)

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