病気やケガで要介護状態になり、ライブに一人で行くのが難しくなったら……?まだ課題はあるが、“推し活”を諦めなくていい環境が少しずつ整ってきた。AERA 2023年7月3日号の記事を紹介する。
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好きな人やものを応援して、楽しみや生きがいを感じる“推し活”。ただ、要介護状態になっても推し活への同行は介護保険の適用外だ。そんな中、思いに応える民間のサービスもある。
千葉県に住む山内ゆかりさん(50代)は3年前、自宅で「いつもと体調が違う」と気づいた。呂律(ろれつ)が回らなくなり、右の目玉が鼻のほうに寄っていく感覚に襲われた。脳出血だった。それが原因で全身まひに。また歩ける保証はない。思い描いていた未来を歩めないのかと絶望した。
■リハビリ中毎日聴いた
支えになったのはデーモン閣下率いるバンド「聖飢魔II」。楽曲の素晴らしさに衝撃を受け、倒れる前から「信者」だった。
リハビリ中は毎日、聖飢魔IIの音楽を聴いた。「EL DORADO(エル・ドラド)」の歌詞、「早くゆけ 早くゆけ 夢にまで見た 黄金郷」を聴くと未来に向かって立ち上がろうという気にさせられた。
「悪魔が私に力をくれる気がするんです。『次の大黒(だいくろ)ミサ(ライブ)には自分の力で行くように』と見守られているような感じがしました」
半年間の入院を経て、歩けるまでに回復した。昨年10月、県内であった大黒ミサツアーに参加することにしたが、まだバランス感覚に不安もあり、左手の握力は半分しかない。電車の乗り換えも不安だ。とはいえ自宅からタクシーを使うのはお金がかかりすぎる。友達も忙しそうで付き添いを頼みづらい。
ネット検索し、首都圏で介護保険適用外のサービスを提供する「クラウドケア」を見つけた。スポット依頼なら、1時間3千円+交通費で利用できる。
事前にヘルパーの若松真さん(42)とメールで打ち合わせし、JR千葉駅で待ち合わせた。
若松さんは移動中、いつでもサポートできるように、山内さんが杖(つえ)を持っていない側の少し後ろに立ってくれた。
「このサービスと出合えなかったら、参加を諦めていたと思います。おかげで心の栄養が補給できました」(山内さん)