関西の名門、灘中学校・灘高等学校。その数学研究部は、国際数学オリンピックの日本代表選手を数多く輩出してきた。昨年度の卒業生には、史上最年少の17歳で司法試験に合格した生徒もいる。数学研究部の驚異の活動に迫ったAERA 2023年7月3日号の記事を紹介する。
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国際数学オリンピックに数多くの選手を送り出しているのが、灘中学校・高校の「数学研究部」だ。60年近い伝統があり、OBには著名な研究者も多い。数学オリンピック財団理事長の藤田岳彦さんもそのひとりだ。史上最年少の17歳11カ月で司法試験に合格して話題になった仲西皓輝(こうき)さんは部長だった。部の顧問を務める同校教師の河口祐輝さん(33)も、かつてオリンピックに挑戦したことがある。
「最終選考まで残ったんですが、そこで落ちて代表に選ばれませんでした。悔しさより、『もっとこうすれば良かった』みたいな後悔がありますねえ」
と苦笑い。だからか、生徒たちの活躍に目を見張るような思いのようだ。
部員は現在中1から高3まで69人いる。この4月に入学したばかりの生徒も、数学オリンピックに目を輝かせる。
「数学オリンピックの問題は美しい。解けたときの快感もあります」
「どうせ灘に入ったなら、大きな目標を持ちたいから出たい」
「問題が面白そう。みんなと一緒に目指すみたいなところも楽しそう」
■みんなで数学を楽しむ
普段の部活動はハードだ。
「中1は中1講義といって、中3の先輩から、中高6年間分の数学を1年かけて習います」
河口さんがさらっと言うので素通りしそうになったが、改めて聞いて驚いた。本当にそんなことができるのだろうか。
「まあ、なんやかんやという感じです(笑)。大人の目からすると粗さも感じるのですが、最後まで終わらせるのが目的なので」(河口さん)
中2から本格的な現代数学の勉強に入る。大学で使用される数学書を使い、輪読で講義していく。
「分野は生徒が決めるのですが、伝統的に線形代数、微積分、群論などが多いですね」(同)
ふむふむと聞いていて、素朴だが大きな疑問が湧いてきた。部の目標はなんだろう。野球部なら甲子園、吹奏楽部ならコンクールという「大会」がある。オリンピック参加は個人の意思に任されているから部の目標ではない。部長である小出慶介さんに尋ねるときょとんとされた。
「……みんなで数学を楽しむ、ということでしょうか」
そらそうだった。(ライター・神田憲行)
※AERA 2023年7月3日号