ただ、これらのいろんな要素を考えて分析をしていこうと思うんですけれども、いまの時点では、これがこうなるだろうというような予測はなかなか言えないという状況ですね。
ここで私は、ひじょうにある意味、断定的なものの言い方を、つまりいわゆる西洋のディスクールで聞かれるような考え方とは少しズレたところでかなり断定的な言い方をしているわけなんですけれども、それというのも、実は西洋でのディスクールというものがひじょうに偏っているので、私のものの言い方もひじょうにエクストリーム(過激)になるというか、断定的な言い方になってしまうというようなことがあると思います。
全体のコーパス、つまりいろんな議論に関する分析やディスクール、議論の全体を見たときに、そのなかにおけるマジョリティーがどのようなものなのか、そのマジョリティーの人が何を言っているのかということを鑑みたうえでの、私のこのものの言い方というのがあるわけです。
西洋では、プーチンはモンスターだとか、一方でアメリカは自由の擁護者だといったような意見というのは、どこでも誰でも、いま読める話です。みなが目にする話なんです。
私の意見というのはマイノリティーなんですけれども、誰からも何かを奪うような意見でもないわけです。私は、意見の多様性、多元性というものを擁護したいという観点がひじょうに重要だと思っています。
池上 トッドさん自身は、「ちょっと断定的な言い方をしますが」とか、あるいは「アメリカフォビア(米国嫌悪)というのは、ちょっと冗談めかしていますけど」とかいうように、ちょっと保留をしつつも、やはりこういうウクライナ戦争のような出来事というのは多様な見方が本当に必要なことだと思うんですね。
メディアが極めて一方的に伝えているなかで、「ちょっと待てよ」という、そういう視点が、非常に大事であると。そのときに極めて知的レベルの高いトッドさんの視点というのが、大変参考になるなと感じます。これからのこのウクライナ戦争を見ていくうえで、とても大事な視点だなというふうに思いました。
●エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)
歴史人口学者・家族人類学者。1951年、フランス生まれ。家族構成や人口動態などのデータで社会を分析し、ソ連崩壊などを予見。主な著書に『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』(文芸春秋)『第三次世界大戦はもう始まっている』(文春新書)など
●池上 彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。NHKの記者やキャスターを経て、フリーに。名城大学教授、東京工業大学特命教授。主な著書に『世界史を変えたスパイたち』(日経BP)『第三次世界大戦 日本はこうなる』(SB新書)など