慢性腎臓病(CKD)などの病気で末期腎不全となり、人工透析を受けている人は2021年末で34万9700人(日本透析医学会統計調査)。日本では人工透析のほとんどが血液透析を選ぶという偏った選択や、血液透析にかかる高い医療コストがしばしば問題になります。そこで関連学会は腹膜透析や腎移植など、他の治療法についてもきちんと情報を提供し、複数の中からよりよい選択をしてもらう目的で、21年に「腎代替療法専門指導士制度」を発足させました。どのような制度なのか、指導士は医療現場でどのような役割を担っているのか、取材しました。
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都内に住む70代の男性Aさんは、糖尿病の発症をきっかけに60代のころから腎機能の悪化を指摘されていました。病名は「慢性腎臓病(CKD)」(後述)です。70代に入ると腎機能が急速に低下し、主治医から、
「近い将来、末期腎不全になる可能性が高く、そうなると命にかかわってくるので、『腎代替療法』を考える時期にきています」
と言われました。
腎臓は血液中の不要なものを濾過(ろか)して、必要なものだけ体内に戻すなど、生命の維持に大きな役割を果たしている臓器です。糖尿病や高血圧症が原因で、CKDになると、慢性的に腎臓の機能が低下していきます。なお、CKDは軽いものを含めると国内で1330万人の患者がいると推定され、新たな国民病といわれています。
Aさんは東邦大学医療センター大森病院の腎センターに通院していました。
主治医の紹介で、院内に設置されている「腎と健康サポート外来(療法選択外来)」に家族とともに腎代替療法の話を聞きにいくことにしました。腎代替療法とは、機能が低下した腎臓の代わりとなる治療のことで、「血液透析」「腹膜透析」「腎移植」の三つがあります。
そこで看護師から、2回にわたって詳しく話を聞きました。
しかし、血液透析か腹膜透析にするかで、迷い続けました。