「台風や地震などの災害にも、血液透析は弱いです。災害の多い日本という国の中で、とくに在宅でできる腹膜透析のよさを知ってもらいたいという専門医は多いのです」(土谷医師)
もう一つの背景として、18年に起こった公立福生病院のできごとがあると土谷医師はいいます。CKDの患者が血液透析を中止する選択をし、その後、死亡に至ったプロセスにおいて、遺族が納得できず、病院側に慰謝料を求め、裁判となったのです。その後、和解が成立しましたが、和解条項において、「透析中止は患者の生死に関わる重大な意思決定で、病院側の説明や意思確認が不十分だった」と病院側の問題が指摘されました。
この件をきっかけに、SDM(Shared decision making:共同意思決定)の考え方が重要視されるようになりました。SDMは患者と医師(専門家)が治療のゴールや好む治療について時間をかけて話し合い、適切な治療を見つけ出すことをいいます。
「今後は高齢化社会がさらに進み、末期腎不全となっても腎代替療法を選択しない人や、透析中止を希望する患者さんが増えると予想されます。一方で、そのような重要な選択は簡単に決められるものではなく、SDMとして患者さんと話をするために、十分な時間が必要です。これを多忙な医師のみが担うことは難しく、対応に偏りが生じやすいリスクもあるため、さまざまな医療職からなる腎代替療法専門指導士との共同作業が必要なのです」(同)
関係学会は今後、腎代替療法を実施している病院やクリニックに、腎代替療法専門指導士を置くことを必須とし、要件を満たしている医療機関により高い診療報酬がつくような仕組みを考えているといいます。
なお、前出の関さんは、腎代替療法専門指導士という仕事の必要性を強く実感しているといいます。実は関さんはすでに腎臓移植のレシピエント移植コーディネーターとして10年以上、従事してきたこの分野の専門家です。