AERA 2023年6月19日号より
AERA 2023年6月19日号より

 これもあくまで私の仮説なんですけれども、中国がここ最近、態度を少しずつ変えてきているというのは、アメリカ、NATO側が、この戦争に負けるかもしれないということに中国は気づいてきたのではないか。

 つまり、中国はこのウクライナ戦争に関して、アメリカなども含めて、この戦争が台湾まで広がることで決着がつくのではないかというふうに、最初は見ていたと思うんです。

 けれども、ここ最近はだんだん、「もしかしたらこの戦争は台湾までこないかもしれない」「ロシアとウクライナの地で終結が迎えられるのかもしれない」というふうに見ているのではないかと思うのです。

■産業生産力の戦争

 さらにもう一点、指摘するとすれば、もしこの戦争が、本当に産業生産力の面での戦争という形になったとしたら、つまりアメリカがたとえば、爆弾や大砲を十分に生産できないという状況になったなら、アメリカはもしかしたら、同盟国の工業国にプレッシャーを、より圧力をかけるようになるのではないかと思います。それはどこの国かというと、ヨーロッパではドイツ、そしてアジアでは韓国や日本、とくに日本です。

 というのも、アメリカ側についている国のなかで産業国家といえば、日本とドイツだからなんです。それゆえに、アメリカがこれらの国にもしかしたらプレッシャーをかけ始めるのではないかと、私は考えるわけです。

池上:態度を少しずつ変えてきている中国は、23年2月24日にロシアとウクライナの、停戦に向けての仲介案を出しました。これをどのように評価するのか。あるいは、そこでの中国の狙いは何なのか。どう見ますか。

トッド:おそらく世界レベルにおいて、「中国は仲介国である」というふうに、自身を位置付けたいのではないかと思います。

 たとえば、23年3月10日に、外交関係を断絶していたサウジアラビアとイランが、中国の仲介で外交関係を正常化することに合意しました。サウジアラビアの同盟国であるアメリカは蚊帳の外でした。

 そのような「地政学ゲーム」の中に中国が入ってきたという状況は、なぜか。先ほども触れましたがやはり、「ロシアがこの戦争で負けることはないだろう」とわかったからだと思いますね。

 つまり中国は、アメリカがだんだんと「傾いていく」というふうに見ているわけです。そんななかで、中国は世界政治のできるだけ中心に近寄りたいというような思惑があって、だからこそのあの行動だと思います。

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